夢見る電信柱2009年05月21日 21時17分02秒

(賢治の水彩画)

ふと思ったのですが、
宮澤賢治は電信柱に深い思い入れがあったのでしょうか。

小学校に上がってしばらくした頃、
部屋の振り子時計が、
<こっき、こっと、こっき、こっと>
と音を立てるのを布団の中で聞きながら、なぜか

ああ、あれは電信柱が歩いている音だ―

と息をひそめて、夜の気配におののいていたのを覚えています。
たぶん、教育テレビで電信柱の影絵芝居を見た印象が、あまりにも鮮烈だったせいでしょう。
あれの原作は賢治の「月夜のでんしんばしら」ではなかったでしょうか。

今でも酔って深夜に帰宅する時、ナトリウム灯の街灯の群れを見ると、ちょっと子供のころの感覚がよみがえったりします。

信号柱の純愛物語、「シグナルとシグナレス」。
あれもとても不思議な話です。
地上に立つ2本の信号柱が、夜毎星を見上げ、宇宙で結ばれる物語。

あの話は、夜明け前の空にさそり座のアンタレスがのぼる描写で始まります。
季節は巡り、ちょうど今の季節、アンタレスは午後8時頃に地平線からゆらりと姿を現わします。
夏の気配があたりに満ちる宵。
皆が寝静まった頃、電信柱は町を歩き、信号柱は睦言を交わすに違いありません。