ジョバンニが見た世界…大きな星座の図(12)2013年03月30日 11時27分25秒

(一昨日のつづき)
 

さて、バッカー天球図の細部を見ていきます。
  


「ふしぎな獣や蛇や魚や瓶」や「蝎だの勇士だの」が居並ぶ星の世界。
 
(彩色には若干雑なところがあります。プロの彩色師ではなく、素人の手わざかもしれません。)

「あ孔雀が居るよ。」
「ええたくさん居たわ。」女の子がこたえました。
 ジョバンニは〔…〕森の上にさっさっと青じろく時々光って その孔雀がはねをひろげたりとじたりする光の反射を見ました
。 (「九、ジョバンニの切符」より)
   +
新世界交響楽はいよいよはっきり地平線のはてから湧き そのまっ黒な野原のなかを一人のインデアンが白い鳥の羽根を頭につけ たくさんの石を腕と胸にかざり 小さな弓に矢を番えて一目散に汽車を追って来るのでした。
 「あら、インデアンですよ。インデアンですよ。ごらんなさい。」 (同)

 

文字の部分を見れば、その鮮明な彫りと刷りが一目瞭然です。
彩色に関していうと、上の文字部分の背景に塗られた<桃・緑・褐・黄>は、この星図の他の品にも共通するので、版元のオリジナルであり、それ以外の星図部分については、買い手の注文に応じて、あるいは買い手自らが彩色を施したのだと想像します(星図部分がモノクロのまま残されている品も少なくありません)。
 


 
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実物とポスターでどれぐらい鮮明度に違いがあるか、直接比較してみます。
 

左が実物、右がポスター(表示の縮尺は左右で異なります)。
繰り返しますが、右側はピントが外れているわけではなく、実際目で見てもこんな感じです。近くで見ると鑑賞に堪えないと言った理由がお分かりいただけるでしょう。
 

上は文字の部分の比較ですが、ポスターでは判読不能なほど細部がぼやけてしまっています。ジョバンニは、バイト先の活版所で「虫めがね君」とあだ名されるぐらい目が良かったので、このポスターでは星界への憧れを誘われなかったことでしょう(もちろん、当時こんなポスターがあったはずはありませんが)。

こうして比べてみると、やはりこれはお粥を啜ってでも、実物を買ってよかったなあと思います。
 

澄み切った空の下、きれいに飾られた街並みの一角で、明るくネオンに照らされたショーウィンドーに掛っていたのは、こんな星座絵だったと想像します。

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7年余り前から書き続けてきた「ジョバンニが見た世界」も、今日でひとまず終わりです。最終回と言っても、別に華やかな何かがあるわけではなく、ひっそりと終わるのですが、書き手の側にはちょっとした感慨があります。
今後は、番外編として「活版所」を取り上げたり、総集編としてこれまで登場したモノを振り返ってみたいと思いますが、もちろん、通常の天文古玩の記事はまだまだ続きます。

限りなく青い空に心ふるわせ2013年03月30日 11時44分06秒



今日は二連投です。

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飛行家、武石浩玻(たけいしこうは;1884-1913)。
彼が墜落死して、今年でちょうど100年になります。
少年時代、その報に接した稲垣足穂は、終生その経験を反芻し、そこに込められた意味を言葉にしようと努力し続けました。

コメント欄(http://mononoke.asablo.jp/blog/2013/03/22/6755018#c6761843)で、常連コメンテーターのS.U氏は、上の事実を敷衍して、我々の人生にとって大きな意味を持つのは、実は「劇的な体験」よりも、日常の「ふとした体験」なのではないか、だからこそ若い人は感性を研ぎ澄ませて、日々を大事にしてほしいと、卒業の時期にあたってエールを送っています。

そもそも、コメント欄への登場回数が最も多いS.U氏とはいったい何者なのか、疑問に思われる方もいらっしゃるでしょう。氏は現役の物理学者であり、かたわら天文学史に造詣が深く、さらに足穂・賢治の深い読み手でもあるという、まことに得難い人で、私の師匠格にも当たるので、私は若くもなんともないですが、上記のコメントは私自身にも向けられたものと勝手解釈して、明後日からの新年度を迎えたいと思います。

そしてまた、今日は朝日新聞・土曜特別版「be」の記事に触発されて、「旅立ちの日に」をYouTubeで聞きながら、上記コメントを読ませていただいたので、武石の最後の飛行の情景や、それを思い浮かべてワクワクしていた足穂少年の心に思いをはせて、不覚にも落涙しそうになりました。

旅立ちの日に(タンポポ児童合唱団)
  
http://www.youtube.com/watch?v=XA1iZ3wl6uY

S.U氏とともに、私からも若い人たちに祝詞とエールをお送りします。