オリエントの天文世界2014年04月13日 10時21分25秒



薔薇十字プラネタリウムに対抗して、エジプトのお隣、メソポタミアの天文遺物を見てみます。


この分野に関して日本語で手軽に読める文献としては、近藤二郎氏の『わかってきた星座神話の起源―古代メソポタミアの星座』(誠文堂新光社、2010)が唯一のものではないでしょうか。近藤氏は本来エジプト学がご専門で、姉妹書に『わかってきた星座神話の起源―エジプト・ナイルの星座』もあります。

一緒に写っているのは、紀元前8世紀のアッシリアの古星図断片。
楔形文字で暦月の呼び名と主要星名・位置が記されています。


有翼の蛇に乗る獅子。その先に輝くのは木星。
この<獅子プラス蛇>のイメージはエジプトにも伝搬し、プトレマイオス朝末期に作られた有名な「デンデラの天体図」にも「蛇に乗る獅子」が描かれています。獅子はもちろん獅子座であり、蛇は後の海蛇座に当たるのではないかと言われます(近藤氏前掲書参照)。


紀元前200年、セレウコス朝期の天文暦の一部。

   ★

以上、すべて現代作のレプリカですが、天文学の悠遠な歴史を思いやるには恰好の品。書棚にちょっと飾るといい雰囲気なんですが、今のところスペースがないので、抽斗の中にしまいっぱなしです。

コメント

_ S.U ― 2014年04月17日 07時48分27秒

3千年前の図であっても何の星座かわかるというのは、天文ファンが他分野に自慢できるところですね。

 ところで、獅子座と海蛇座の星図は鏡像になっています(最近こんなことばかり気になるようになりました)。下に目盛りのような区画があるので、これは暦学の説明上の都合なのでしょうか。

_ 玉青 ― 2014年04月18日 07時16分50秒

近藤氏の本によれば、お尋ねの品は「ウルク出土の後期の占星術を刻した粘土板」とのことです。その絵柄が左右反転している理由は分かりませんが、同書には正しい向きで描かれた、獅子と蛇の星座の復元図も掲載されていて、やっぱりこれはしし座+うみへび座で間違いないようなのですが、うーん、なぜでしょうね?後の星図のように天球儀を展開した形で描かれている…というのも、ちょっと考えにくいような。

_ S.U ― 2014年04月18日 19時26分51秒

 ありがとうございます。いずれ、近藤氏の本を拝見することにしましょう。
 天文ファンなら誰が見てもしし座とうみへび座と思うでしょうが、それで正しいというのは単純にうれしいです。

>天球儀を展開した形で描かれている…というのも、ちょっと考えにくいような

 そうですね。天球儀の発想ではないような・・・
 
1) くさび形文字は、左→右と書くので、暦との関連で、左から順に早い南中時刻(赤経の値)、あるいは早い南中の月日にしたため、星図の左右がひっくり返ってしまった。

2) お魚や犬・猫の絵を描くときに、ふつう左に頭を持ってくるのと同じ。

 感覚的な理由ですが、このあたりがもっともらしいように思います。

_ 玉青 ― 2014年04月19日 17時50分49秒

うーむ、相手が楔形文字となるとさすがに手ごわいですね。
純粋に雰囲気で選ぶと1)説に一票を投じます。少なくともここには何らかの規則性があるような気がしてきました。改めて思うに、この絵には元となった天球図、あるいは円環状の獣帯星図があって、それにならって描かれた気がするのですが、その元絵が天球儀式の表現を取っていたんじゃないでしょうか。天球儀はなくとも、天球図はオリエント世界にもありましたから、これはさほど突飛な発想ではないように思います。

考察の出発点として、以下のページを見つけました。
http://members.westnet.com.au/gary-david-thompson/page11-10.html

上記ページには、このしし座粘土板の片割れである、おとめ座とからす座の粘土板についての言及がありますが、その線画による模写は以下に(両星座の間にあるのは水星だそうです)。

http://cdli.ucla.edu/search/search_results.php?SearchMode=Text&ObjectID=P363685

_ S.U ― 2014年04月20日 06時44分58秒

>天球図はオリエント世界
 そうなんですか。私は、ご紹介のデンデラのものくらいしか知らないので、こちらの画像を見てみましたが、蛇に乗った獅子は右を向いていました。これは天井に描かれているそうですから当然でしょう。「手稿文書」になっているものを見ないといけませんね。

 ウルクだかアッカドだかには別の星図か天球図もあったような気がしますが、今回の玉青さんの写真にある放射状に線のある円盤がその類ではないかと思います。こちらの左右の向きはわかりますでしょうか?

>おとめ座とからす座の粘土板
 うみへびの尻尾をくちばしでつつくカラス。我々が悠久の歴史にどっぷりとつかっていることを一瞬にして感じさせてくれます。見ているだけで笑ってしまうほどです。

_ 玉青 ― 2014年04月20日 11時02分15秒

ちょっと勢いで書いてしまいましたが、私もオリエントの星図に通じているわけでは全くありませんので(むしろ何も知りません;)、その辺は割り引いてお聞きください。
お尋ねの粘土板はそのわずかな既知の例なのですが、昨日リンクしたサイトにはこちらも詳しく解説されていました。
http://members.westnet.com.au/gary-david-thompson/page11-9.html

異説もあるようですが、一説によれば上から時計回りに(2番目の図に振ってある番号でいうと6、5、4、3の順に)、てんびん、おとめ、ふたご、おうしと同定され、この粘土板はどうやら天球儀式の配列になっているようです。

_ S.U ― 2014年04月21日 07時07分50秒

ご調査ご教示ありがとうございます。「鏡像vs非鏡像」問題が星図のあけぼの時代まで遡るとは意外でした。
 
 天球図の円盤などは、本当に外側(裏側)から見たつもりかもしれないと思います。上を向いてぐるぐる回すよりも、外にいるつもりで下を向いて操作したほうが身体の姿勢にも暦学の考察にも楽かもしれません。

_ 玉青 ― 2014年04月22日 07時03分54秒

>「鏡像vs非鏡像」問題が星図のあけぼの時代まで遡るとは意外

本当ですね。興味深い星図史の「裏表」。
平面世界を生きていたヒトが、星空と向き合うことで三次元世界に目覚め、さらに星図を作成することで宇宙を(さらにそれを超えた世界を)見はるかすようになった…とすれば、これは人類の精神史において巨大な事件だったと言えますね。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック