ある神父さんの夢の天文台 ― 2014年04月15日 06時37分03秒
エジプトをイメージした薔薇十字プラネタリウムもそうでしたが、天文台にもオリエンタリズムの横溢した作例があります。
(1910年頃の絵葉書)
フランス中部の町、ブールジュに立つ不思議な建築。
天文台としての固有名詞はなくて、絵葉書でも「モルー神父の天文台 Observatoire d’Astronomie de l’Abbe Moreux」という呼び方をしています。
モルー神父(Théophile Moreux, 1867-1954)は、僧籍にあるいっぽう、数学教師で、天文家で、多くの科学啓蒙書を書いた著述家でもあるという多彩な顔を持つ人。天文に関しては例のフラマリオンの弟子に当たります。
(モルー神父。フランスのフリー百科Berrypédiaより)
彼は最初の天文台を火事で失った後、新たにムーア様式(北西アフリカのイスラム圏で生まれた建築様式)を取り入れた新天文台の建設に取り組み、1909年に完成しました。
神父さんのくせにイスラム建築にはまるというのも変ですが、そこには1905年の皆既日食観測遠征でチュニジアまで出かけた経験が反映していると言われます。とはいえ、チュニジアに行った人がみなムーア建築のとりこになるわけでもないので、やはりモルー神父本来の趣味もあるのでしょう。なつめやしの葉ずれ、砂漠に上る新月…そんなイメージに、ロマンチックな憧れがあったのかもしれません。
それがムーア様式であるかどうかはさておき、自分の夢を思う存分形にできたモルー神父は、たいそう幸せな人であったと思います。
この天文台、今ではドームが失われていますが、建物自体は健在で、下の参考ページでその姿を見ることができます。
【参考ページ】
■Observatoire de l'abbé Moreux à Bourges
http://www.ac-orleans-tours.fr/fileadmin/user_upload/daac/document/hida/observatoiremoreux.pdf
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