甲虫の劇場2016年04月14日 19時50分13秒

今日は町場から離れたところを、電車に乗ってゴトゴト走っていました。
里山はモザイク状の濃い緑と浅緑、そこに赤みを帯びた若芽や山桜のピンクが混ざって、美しいパッチワークを見せていました。古人が言う「山笑う」とは、あんな光景を言うのでしょう。田んぼでは代掻きも始まり、濡れた田には初夏の陽光が反射し、本当に胸の中が軽くなるようでした。

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さて、今日も虫の話題です。


以前、名古屋のantique Salonさんを訪ねたとき、棚の一角で光を放っていた標本。
一頭カメムシの仲間がいますが(最下段の赤黒のツートン)、それ以外はカラフルな甲虫類を並べたものです。

一口に甲虫と言っても、この標本にはカミキリムシ、ゾウムシ、コメツキムシ、タマムシ、コガネムシ…と、多様な仲間が含まれています。肝心のラベルも付属しないので、これは本格的な標本というよりは、装飾性の強い品だと思いますが、それだけに黒の標本箱と色鮮やかな虫体の取り合わせに、この標本作者が十分意を注いだことが感じられます。


純白の空間に浮かぶ甲虫とその影。


ここに並ぶのは主に外国産の甲虫類で、私もまだ種を同定していません。



それにしても、これらごく少数の甲虫を一見しただけでも、甲虫類の多様性と魅力は存分に感じられます。それは甲虫そのものの奥深さであり、この標本箱を作った人の感覚の鋭敏さの証でもあります。

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■A.V.エヴァンス・C.L.ベラミー(著)、加藤義臣・廣木眞達(訳)
 『甲虫の世界―地球上で最も繁栄する生きもの』
 シュプリンガー・フェアラーク東京、2000)

昆虫博士になることを夢見た子供時代の私が、最も魅かれたのも甲虫類であり(あえて鞘翅類(しょうしるい)と呼ぶのが誇らしかったです)、そして街中でも十分にその姿を追うことができたのは、彼らが多様な生活様式を持ち、あらゆる環境に適応していたからでしょう。

(同書より「第6章 ビートルフィリア〔甲虫愛〕」冒頭)

今の私は甲虫への愛をストレートに表現することは最早ありませんが、それでもこういう品に思わず引き寄せられるのは、今でも子供時代の心が少なからず残っているせいかなあ…と、ちょっと嬉しいような、苦いような気分です。

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