中世がやってきた(3)2018年04月29日 15時54分00秒

(今日は2連投です)

尚古趣味とか、好古家というのは、古代ローマ時代から存在したそうですが、特に「中世」という時代に注目が集まり、もてはやされた時期があります。それは、18世紀後半から19世紀にかけてのことです。

図式的に言えば、前代のグレコ・ローマンに範をとった<古典主義>に対抗するものとして、中世を称揚する<ロマン主義>が勃興するのと軌を一にする現象で、一口にロマン主義と言っても、その実態は国によって様々でしょうが、現象面でとらえれば、中世趣味が最も先鋭的に表現されたのは、イギリスだったようです。それは産業革命の進展と、とめどない社会の世俗化に対する精神的反動でもあったのでしょう。

その動きはジョージ王朝末期に、まずはゴシック・リヴァイバルという「擬古建築」の形で幕を開け、続くヴィクトリア朝を通じて、文化のあらゆる側面に波及し、絵画ではラファエル前派を、そして工芸分野ではウィリアム・モリスのアーツ・アンド・クラフツ運動を生み出しました。中世の写本蒐集熱が高まったのもこの時期です。

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そうした中で、古い中世ガラスやルネサンス・ガラスを求める人も現れました。
たとえば、サー・ウィリアム・ジャーニンガム(Sir William Jerningham、1736-1809)という人がいます(以下、引用はヴァージニア・チエッフォ・ラガン著、『世界ステンドグラス文化図鑑』、東洋書林、2005より。改行は引用者)。

 「彼は自宅のテューダー様式マナー・ハウスの近くにゴシック・リヴァイヴァルの礼拝堂を造り、その窓に嵌めこむ中世ガラスの収集を始めた。〔…〕パネルの少なからぬものがジョン・クリストファ・ハンプを通して購入されたらしい。

ハンプはノリッジの毛織物商人で低地地方のアントウェルペン、ブリュージュ、フランスのパリ、アミアン、ルーアン、ドイツのケルン、アーヘン、ニュールンベルクを訪れた。ハンプはナポレオン征服後の世俗化時代に、解散した修道院から大量の中世ガラスを入手し、イギリスのかなりの教会へ売った。

〔…〕84パネルを数えるジャーニンガム・グラスは、サー・ウィリアムの死亡した年、1809年までに完全に設置されたようである。」(上掲書 pp.171-172)

当時、高まる中世熱に応えて、古いガラス片をヨーロッパから買い集めて、大英帝国で売りさばく専門の商人までいたようです。その顧客は、由緒付けを求める教会であったり(イギリスの教会は16世紀の宗教改革と国内動乱によって、かなり荒廃した時期があります)、広大なマナーハウスを抱えた新興貴族だったり、様々でした。

それがどんな風に使われたかは、ヨークの聖マイケル教会(現在はレストランに改装されています)の内部を見ると、およそ想像がつきます(以下、画像出典はhttp://www.docbrown.info/docspics/yorkscenes/yspage04b.htm)。


こんな風に、部分的に絵柄のつながった隙間を、似た色模様のガラスで補ったものもあれば、


全くランダムにピースをはめ込んだパネルもあるという具合。

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こうして再び安住の場を得たステンドグラスですが、オーナーである貴族が没落すれば(ダウントン・アビーの世界ですね)、再び売りに出され、最終的には博物館に収まることになります。サー・ウィリアム・ジャーニンガムの場合もまた然り。

 「一回目の売却は1885年、その中には領地の建物のパネルが多く含まれ、二度目は1918年、礼拝堂の建物が解体されたときで、それによりすばらしい作品の多くがロンドン、ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館やニューヨーク、メトロポリタン美術館など公共のコレクションで展示される道が開けた。」(ラガン上掲書、p.172)

ジャーニンガムのものではありませんが、ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館のサイトを見たら、似たような感じのものとして、こんなステンドグラスのパネルが紹介されていました。


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わが家のステンドグラスの素性も、上のような事実に照らせば、だいたい想像がつきます。これも19世紀の<中世熱>の中で見出され、マーケットに流出した品なのでしょう。

詳細な出所・伝来は不明ですが、直近の持ち主は(売り手曰く)彫刻・ガラス工芸作家にして、南コネティカット州立大学で美術を教えた、ピーター・ペレッティエリ氏(Peter Pellettieri、1997年に58歳で没)だそうで、まず確かな品と言っていいでしょう。

ペレッティエリ氏は、ヨーロッパの古美術コレクターとしても知られた人で、このステンドグラスも、美術的な見地と作品制作の資料という二重の意味合いで、氏が手元に置いていたものだと思います。

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