ある天文学者の書斎2023年01月12日 21時40分32秒

YouTubeで、「An Astronomer's Great Library」という動画をおすすめされました。1か月前に公開され、すでに49万回再生されているので、相当見られているようです。(下は例によって単なる画像に過ぎないので、その下のリンクをクリックしてください。)


こういうのを何て言うんでしょう?アンビエント動画?
途中からはBGMも極端に控えめになって、あとはかすかに炎がパチパチはぜる音や、コツコツ歩き回る音が聞こえる中、空想の天文学者の書斎のCGが延々と続きます。単調といえば単調ですが、単調さこそがこうした環境映像に求めれられるものなのでしょう。

もちろん、見ている人はこれがすべてファンタジーだと納得づくで見ているはずですが、「天文学者の書斎」というテーマに対して、現代の人々がどんなファンタジーを重ねているか、それを示している点で興味深いと思いました。

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この動画は、映画版「ハリー・ポッター」に出てくるダンブルドア校長の部屋↓と、発想源は同じだと思います。

(画像は拾い物)

そこでイメージされている天文学者は、半ば魔法世界の住人であり、占星術師でもあり、要は下のような姿の人なんだと思います。


この画像は、今から12年前に書いた以下の記事に貼ったものです。

■カリカチュアライズされた天文学者のルーツを探る(前編)
■同(後編)
記事では、ファンタジックな天文学者像のルーツを求めて、啓蒙主義思想の行き渡った18世紀にその答を求めました。それはすなわち、16世紀に隆盛を誇った占星術が公式科学の世界から退場し、占星術師がことさら「愚昧な存在」と人々にイメージされるようになった時代です。

当時の占星術師は、現実にはかぶったことのないとんがり帽子をかぶせられ(それは本来、17世紀半ばの医者や薬種屋のコスチュームでした)、16世紀には存在しなかった望遠鏡を持った姿で描かれました。それがさらに天文学者にまで応用された結果が、上のファンタジックな天文学者像というわけです。

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冒頭の動画は、そうしたイメージが延々と21世紀になっても生きていることを示すものですが、ただ18世紀と違って、そこには嘲りの調子がありません。あるのはむしろ憧れと畏敬の念です。

そのことをどう評価するかは、またいろいろな論点があって、話は容易に尽きそうにないので、この件はいったん寝かせておきます。