冬の華2009年12月19日 16時53分47秒

私の住む町にも、ついに初雪が降りました。
昨夜、夢うつつの状態でゴーゴーという風の音を聞きましたが、あのとき上空には冷たい空気が大量に流れ込んでいたのでしょう。目が覚めたら、辺りが妙に静かで、「あ、これは雪だな」と思い、ぱっと窓の外を見たら木々はもう真っ白でした。暖国(というほどでもありませんが)の人間にとって、雪は楽しい天からの贈り物。

  ★

こういう雪の日は、ひたすら静かに読書をしたいものです。
写真は、そんな折にふさわしい1冊。

■中谷宇吉郎、『冬の華』
 岩波書店、昭和13(1938)、436p.

「雪博士」中谷宇吉郎(なかや・うきちろう、1900-62)の第1随筆集。
同年、岩波新書に収められた『雪』(現在は、岩波文庫に入っています)と共に、著者の処女作でもあります。この『冬の華』は、以後シリーズ化して、『続冬の華』『第三冬の華』と続きます。

当時、著者は北大理学部助教授。2年前に人工雪の製作に成功し、学者として脂が乗っていた時期。

一連の文章の中には、世態人情や歴史について叙した、純然たる「文系」の文章も含まれますが、著者の本領はやはり「科学随筆」で、一見「文系」の文章に見えても、どこかに科学が顔を出しているのが、読んでいて楽しいところです。もちろん、「雪の十勝」「雪を作る話」など、雪に関する話題も豊富です。

その文章は、師匠である寺田寅彦ばりの滋味豊かな筆致で綴られており、話題もまた寺田寅彦をめぐるものが少なくありません。

寺田寅彦のそのまた文学上の師匠が夏目漱石で、『吾輩は猫である』に出てくる「寒月君」のモデルが寅彦だというのは有名な話。ただ、私は知らなかったのですが、作中で寒月が振り回す「首縊りの力学」というネタにはちゃんとした典拠があって、1866年にイギリスのホウトンという学者が、物理学雑誌に発表した論文がそれだとか。それを寅彦から直接聞いた著者は、更にいろいろと考証を加えて、「寒月の『首縊りの力学』其他」という文章にまとめています。漱石や寅彦の人となりをも彷彿とさせる愉しい一編。

  ★

外はもうすぐ日が落ちます。また寒気が強まってきました。
皆さんも、風邪などひかれませんように。

コメント

_ S.U ― 2009年12月19日 18時14分12秒

『猫』では、純真な物理学者の卵の水島寒月君が、あやしげな大人や実業家にからかわれ翻弄され、実にお気の毒な限りです。私は、これは現代の科学者をめざす若者の状況にも一脈通じるものがあるように思うのですが、世間の皆様がそう受け止めて下さるかどうか...

 なお、寒月の「首縊りの力学」の問題自体は、人間がぶら下がる悪いイメージを払拭すれば、力学のよい練習問題(両端の支柱に働くひもの張力を計算する)として現代でも通用すると思います。

_ 玉青 ― 2009年12月19日 18時50分21秒

S.Uさんには、是非平成の寒月、もとい寅彦を目指していただきたいですね!!(私は迷亭…ほど弁は立ちませんが、まあ茶々を入れる役回りで登場させていただければ嬉しいです。)

** ごく私的コメントですが、「天界」掲載の沼尻墨遷に関するご論考、興味深く拝見しました。**

_ S.U ― 2009年12月20日 08時24分41秒

** ごく私的な御礼 **  拙稿をご覧いただきありがとうございました。当ブログでいただいたコメントによって、茨城県の郷土史と蘭学との接点を議論できました。

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