ジョバンニが見た世界「時計屋編」(12)…黒い星座早見盤(第2夜)2011年12月22日 22時03分43秒

以下、同じセッティングの、似たような写真が続きます。

   ★

今日はフィリップス社の、古いバージョンの早見盤です。


一昨日の三省堂版とちがって、この早見盤で「黒い」のは、星座盤を覆うカバーの方です。そして星座盤そのものは、深緑に近い色をしています。
漆黒のカバーを彩る金文字や金彩は実に繊細華麗で、まさに星座早見盤史に残る傑作といってよく、時代の嗜好にも大いに叶ったのでしょう、この早見盤はかなり大量に作られたようです。(1896年の時点で、既に25,000部も売れたことは、以前触れました。)

また、イギリスのみならず、ドイツやイタリアでも各国語版が売り出されており、「銀河鉄道の夜=1912年」説や、物語の舞台がイタリアっぽいという点からして、この早見盤こそ、ジョバンニが見たものの最有力候補に推したいと思います。

(↑以前、eBayで落札し損ねたイタリア語版。画像のみ借用しました。)

ところで、一昨日の記事の中で、この早見盤は既出(http://mononoke.asablo.jp/blog/2006/01/26/227011)だと書きました。しかし、厳密に言うと初登場です。というのは、前に紹介したのは北天用で、今日の品は南天用だからです。


南半球の空を流れる銀河と南十字(Crux)。そのすぐ傍らに口を開けるコールサック(石炭袋)。ここがジョバンニの旅の終着点です。

(この項つづく)

コメント

_ S.U ― 2011年12月23日 08時49分33秒

「北天用」「南天用」に関連して思い出したのですが、相当以前に、表が北天用、裏が南天用という星座早見を見たことがあります(買っていません)。といっても、天の南極付近は窓に入っておらず、あくまでも日本からみた南の方向の空の部分だけが、よりゆがみの少ないかたちで見えている物でした。詳細は憶えていません。現在、こういうものは入手可能でしょうか。

_ 玉青 ― 2011年12月23日 20時07分56秒

コメントを拝見して、パッと思い付いた品はこれです。合っていますでしょうか。
http://www.ne.jp/asahi/mononoke/ttnd/temp_image/daiwa
図は高城武夫氏の『天文教具』(恒星社、昭和48)からスキャンしましたが、この早見盤は、著者の高城氏自身の創案だそうです。この書籍自体40年近く前のものですから、確かに「相当以前」には違いありません。(^J^)

大和〔ダイワ〕科学教材研究所から出ていた「星の観察」という名称の品ですが、同社でも既に廃番になっており、販売はされていないようです。
(同社の現行モデルはこちら http://www.daiwa-e.com/ca2011/p/058.html

現行の品で似たものを探すと、表と裏にそれぞれ北半球と南半球の星空が表示される、星の手帖社の「北天・南天星座早見盤」があります(同一地点の北方と南方の星空を表示するものではありません)。
http://www.astroarts.co.jp/shop/showcase/plns-ns_sphere/index-j.shtml

北方と南方の星座を見やすく(形のゆがみを小さく)表示するという意味では、同じく星の手帖社の「パノラマ星座盤」が機能的には近いですね。
http://www.astroarts.co.jp/shop/showcase/ct-panorama/index-j.shtml

_ S.U ― 2011年12月23日 20時42分15秒

ありがとうございます。
裏面は、大和科学研究所の旧盤に近い物でした。
年も昭和48年頃でした。
ただし、表面は普通の星座早見でしたので、私の見たのは別の製品です。
 星座早見は時々いろいろと工夫がされているようですが、基本的には従来型のデザインが多いですね。その中で渡辺教具のおわん型は日本の名品と言えるでしょう。

_ 玉青 ― 2011年12月23日 21時08分43秒

あ、残念。てっきりアレだと思ったんですが…
うーむ、星座早見盤には、まだまだ知られざる逸品が多くありそうですね!

ところで、少し前に「南北あらゆる緯度で使える星座早見」という珍品を入手しました。
1943年にアメリカで出たものですが、これは結構大きいネタなので、もう少し寝かせておこうと思います。(先にちょっとネタばらしすると、その仕組みは、以前S.Uさんが「天界」誌で論じられた「緯度によって星座早見盤の“窓”の形はどう変わるか?」という問題と深く関わっています。)

_ S.U ― 2011年12月23日 21時13分53秒

>1943年にアメリカで出たもの
 ほほう、それは楽しみです。

_ S.U ― 2011年12月24日 07時33分49秒

思いついたのですが、星の手帖社製のような南半球用の星座早見でも、工夫と考えようによっては北半球の南天用に使えます。
 たとえば、南緯35度の土地は北緯35度の土地(日本)のちょうど地球の裏側と考えられますから、彼の地で見える空は(その時は)日本ではちょうど見えず、日本で見える空はあちらではちょうど見えないわけですから、地平線が共有されて、天と地がひっくりかえっているはずです。
 ですから、星座早見の窓の内側を南緯35度用とするならば、窓の外側は北緯35度用の南天星座早見となります。実用のためには、窓板の全面を透明にして窓枠線を印刷して枠の外側を可視化し、南半球用と北半球用で、東西方向の表示を入れ替えて時刻表示も12時間ずらす(午前と午後を入れ替える)工夫が必要です。

 世界は広いですから、こういう星座早見もあるのではないでしょうか。

_ 玉青 ― 2011年12月24日 10時32分09秒

おお、地平線を共有した天地反転世界!
なるほど、発想の妙ですね。
実用的には、天の南極付近(もともと南天用であれば北極付近)の歪みが極大になるのが難点(※)ですが、地球上での星空の見え方を説明する教具としてはインパクトがありますね。
(※正距方位図法だと、どうしてもそうなると思うのですが、何かうまい手はあるでしょうか。)

_ S.U ― 2011年12月24日 15時25分38秒

>天地反転世界
これしきのアイデアでも「天地逆転の発想」と言えるところがうれしいです。

>正距方位図法
 こちらは、ぱっとしたアイデアは浮かびませんが、星座早見は赤緯の間隔が等間隔になっている必要は必ずしもないので、国内用なら、赤緯-20°~-45°くらいの範囲だけ、等緯線の間隔を1.5~2倍程度引き延ばしてやれば、ゆがみは多少改善するのではないでしょうか。ただ、こうすると天頂が窓の中心からずれる副作用があるので、このほうが問題かもしれません。盤が立体であってよいなら、渡辺教具のおわん型をさらに発展させて、かぼちゃ型でも球面型でもにすればよろしいでしょう。
 でも、最近は携帯端末アプリなどでどうにでもなるので、実際に工夫して新型を試作するほどのやる気は起こりません。

_ 玉青 ― 2011年12月25日 21時14分45秒

>おわん型をさらに発展させて〔…〕球面型でも

うーん、そうなると、天球儀を使ったほうが早いかもしれませんねぇ。(笑)

いずれにしても、星座早見の使い方を一通り教えたところで、「では、この窓の外の部分、今見えてない空は、いったい何を表しているのだろう?」と問うことは、生徒にとって良い頭の体操になりそうです。

そそっかしい生徒の中には(そして私も一瞬そう思いましたが)「それは半年後の星空です!」と元気よく答える者もいそうです。でも、先生が「じゃあ、半年後には、北極星が空から消えているのかな?」と重ねて問えば、今一度考えて、それが地球上の対蹠点の空であることに気付き、星の見え方の理解がいっそう深まることでしょう。
(私も深まった口です(^^ゞ。)

_ S.U ― 2011年12月26日 21時36分36秒

>生徒にとって良い頭の体操

 天文学の基礎から、幾何学の頭の体操まで。 すばらしいです。
そして、科学史も、世界史も、言語学も、日本文学も、...
 これだけ簡単な教材で、星座早見ほど応用範囲の広いものは、ちょっとないかもしれません。

_ 玉青 ― 2011年12月26日 22時37分33秒

『人生で大切なことはすべて星座早見盤が教えてくれた』みたいな本が書けそうですね。(笑)

_ S.U ― 2011年12月26日 23時13分18秒

>人生で大切なことはすべて星座早見盤が

人生に倦んだ時、道に迷ったように感じた時、
そっと星座早見を取り出して、見つめてごらんなさい
あなたの求めていることは、
そこにすべて書かれているはずです

 おぉ、なんかもっともらしいですね...(笑)

_ 玉青 ― 2011年12月27日 20時44分40秒

あはは。

>あなたの求めていることは、
>そこにすべて書かれている

それこそが、カンパネルラの手にした「黒曜石の地図」であった…
と、ここは美しくまとめておきましょう。

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