塔を愛でる ― 2013年02月18日 20時45分44秒
(昨日のつづき)
私が憧れる家、それは「塔のある家」です。
たぶんその起源は、学生の頃に見た(≠読んだ)C.G.ユングの自伝にあります。
ユングは1920年代に、チューリッヒ湖のほとりに「塔の家」を建て、その後30年余り延々と増改築を繰り返しました。それは彼にとって、自己の内界の探究と並行する営みであり、多分に象徴的な意味合いがあったようで、私はその写真にただならぬものを感じたのでした。
(ユングの「塔の家」の初期形(左・1923)と完成形(1955)。ヤッフェ編『ユング自伝2』(みすず書房)より)
塔は、幽閉を連想させると同時に、外界から独立した小世界として、「隔絶しているが故の自由さ」があると思います。それは孤高の精神、精神的自立のメタファーでもあるのでしょう。
そういえば、先日京都の町中を散歩していて、麩屋町通で偶然一軒の古い建物を見かけた折も、自分の中にある「塔への傾斜」を強く感じました。それは塔状の構造を備えた瀟洒な洋館で、そこに蔦が絡まる風情が実に優美で、しばし見とれていました。(下のサイトでその外観を見ることができます。)
★
そんなわけで、私も塔をひとつ所有することにしました。
↑はしばらく前から私の机の上にそびえている塔です。
↑はしばらく前から私の机の上にそびえている塔です。
下から見上げると(見上げることはほとんどありませんが)、その黒々としたシルエットに圧倒されるようです。
なぜこの品が「天文古玩」に登場するかというと、これが単なる塔の模型ではなく、立派な気象観測機器、すなわち晴雨計(湿度計)だからです。
そのせいで、2階の窓には何やら回転する目盛り↓が見えますし、
湿度に応じて、1階の入口には、貴婦人の姿や「?」マークが現れたりする仕掛けになっています。
○?
とはいえ、やはりこれは理科趣味よりは、ヴンダー趣味寄りの品かもしれません。
出窓から身を乗り出して何やら叫ぶ小男↑や、煙突に浮かぶ蛇状S字紋↓は、なんだか謎めいていますし、
頂上のかわいい「風見猫」にも、どことなくマジカルな匂いがあります。
この不思議な品は19世紀のフランス製、素材は鋳鉄です。
コメント
_ S.U ― 2013年02月19日 07時07分09秒
_ 玉青 ― 2013年02月19日 23時09分24秒
塔にはさまざまな機能があるのでしょうが、仰る通り、実はその原初の姿は、バベルの塔のように「ひたすら天を目指す」ものであったのかもしれませんね。とすると、実は「愛塔趣味」と「天文趣味」との距離は意外に近い…のかもしれません(←ちと強引に結び付けてみました)。
_ たつき ― 2013年02月20日 05時10分32秒
玉青様
ユングの塔の家は私も大好きです。たしか、あそこは自宅ではなく、瞑想や患者の治療や執筆を主に行っていたと思います。特に晩年の傑作といわれる作品があそこから生まれたとか。
文章を書くのに場所は関係ない、という人もいますが、場所やものに助けられてよりいいものが書ける場合もあるかもしれませんね。
ユングの塔の家は私も大好きです。たしか、あそこは自宅ではなく、瞑想や患者の治療や執筆を主に行っていたと思います。特に晩年の傑作といわれる作品があそこから生まれたとか。
文章を書くのに場所は関係ない、という人もいますが、場所やものに助けられてよりいいものが書ける場合もあるかもしれませんね。
_ 玉青 ― 2013年02月20日 21時57分32秒
ものを書くには環境が大事という人も、そうでないという人もありますが、後者にしろ、そう思うに至った環境というのがあるわけで、やはり環境の影響は大きいように思います。少なくとも、私は環境にこだわってしまう方です。
私の書斎イメージには、ユング晩年の、きわめて瞑想的な雰囲気の書斎の写真も影響している気がします。まあ、現実はなかなかあんな風にはいきませんけれど…;
私の書斎イメージには、ユング晩年の、きわめて瞑想的な雰囲気の書斎の写真も影響している気がします。まあ、現実はなかなかあんな風にはいきませんけれど…;
_ S.U ― 2013年02月21日 08時07分00秒
>「愛塔趣味」
どうでもいい報告ですが、先週末に初めて東京スカイツリーの下まで行ってきました。愛塔趣味はまだ全盛なようで、閑静な下町に人間密集の特異点になっていて驚きました。
人が多いので、ソラマチ他の店を見るだけで塔には登れませんでした。なお、週末に登るには、午前中に並んで整理券をゲットして夕方にもう一度来れば当日券で何とかなるという感じのようです。
どうでもいい報告ですが、先週末に初めて東京スカイツリーの下まで行ってきました。愛塔趣味はまだ全盛なようで、閑静な下町に人間密集の特異点になっていて驚きました。
人が多いので、ソラマチ他の店を見るだけで塔には登れませんでした。なお、週末に登るには、午前中に並んで整理券をゲットして夕方にもう一度来れば当日券で何とかなるという感じのようです。
_ 玉青 ― 2013年02月21日 22時08分33秒
現代のバベルの塔も大人気みたいですね。
まあ、現代版の方は神に抗う気色もなく、中身もぐっと世俗的なようですから、神の逆鱗に触れそうにないのは何よりかと。
まあ、現代版の方は神に抗う気色もなく、中身もぐっと世俗的なようですから、神の逆鱗に触れそうにないのは何よりかと。
_ S.U ― 2013年02月22日 07時16分24秒
>神の逆鱗
ただ、現代の塔であっても、歴史的な塔であっても、とにかく観光地にある塔は登らずに帰るとなにか勿体ないいけないことをしたようで後ろ髪を引かれるものです。そして少なからぬ余計のお金を払ってしまうこともあります。こういう時に、悪魔か神か知りませんが、えも言われぬ支配の力を感じます。
ただ、現代の塔であっても、歴史的な塔であっても、とにかく観光地にある塔は登らずに帰るとなにか勿体ないいけないことをしたようで後ろ髪を引かれるものです。そして少なからぬ余計のお金を払ってしまうこともあります。こういう時に、悪魔か神か知りませんが、えも言われぬ支配の力を感じます。
_ 玉青 ― 2013年02月22日 22時18分08秒
おお、S.U大人までもが、不可解な感情に突き動かされるとは、まことに塔おそるべし。
思うに「○○と煙は」云々の「○○」とは、人間の内にひそむ狂おしいまでの、そしてデモーニッシュな、「上昇欲」の謂いであり、 人はみな多かれ少なかれ、そうした衝動を抱えているのかもしれません。塔を立て、山に登り、宇宙に進出する…その根っこはすべて1つであり、これもまた人間を縛る業の1つではありますまいか。
思うに「○○と煙は」云々の「○○」とは、人間の内にひそむ狂おしいまでの、そしてデモーニッシュな、「上昇欲」の謂いであり、 人はみな多かれ少なかれ、そうした衝動を抱えているのかもしれません。塔を立て、山に登り、宇宙に進出する…その根っこはすべて1つであり、これもまた人間を縛る業の1つではありますまいか。
_ S.U ― 2013年02月23日 07時17分34秒
>人間を縛る業
在世にあまたあるといふ宿業いずれも去り難し
その一つなる上昇欲わけても天に通ずるに
仏も我が意を得たるとぞ思わざるともなかりけむ
しかれば衆生もろともに東京天樹にうちよりて
ばべるの夢にゑひたるも道心なるとぞ云はるべし
南無高所天空経南無高所天空経
在世にあまたあるといふ宿業いずれも去り難し
その一つなる上昇欲わけても天に通ずるに
仏も我が意を得たるとぞ思わざるともなかりけむ
しかれば衆生もろともに東京天樹にうちよりて
ばべるの夢にゑひたるも道心なるとぞ云はるべし
南無高所天空経南無高所天空経
_ S.U ― 2013年02月23日 07時29分20秒
(自己添削) 「云はるべし」→「云はるべき」 -- 係り結びの法則なつかしい
_ 玉青 ― 2013年02月23日 11時08分41秒
おお、宿業転じて道心となす。有り難しとも有り難し。
さすれば東京天樹は世俗の塔どころか、人々の道心を愈々堅固ならしめる、まことに有難き聖塔と呼ぶべきやもしれませぬ。
さすれば東京天樹は世俗の塔どころか、人々の道心を愈々堅固ならしめる、まことに有難き聖塔と呼ぶべきやもしれませぬ。
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もう一つ思い出したのは、テレビで見たイタリアにあるサンジミニャーノという世界遺産になっている塔の町のことです。そこでは、昔、権力者が塔を競って建てることが流行ったといいますが、テレビを終わりまでも見ても財力を見せびらかすという以上の意味はまったく理解できませんでした。