宝石王の小箱(前編)…カテゴリー縦覧:化石・鉱石・地質編2015年05月11日 06時46分44秒


(Julius Wodiska, A Book of Precious Stones. 1909)

ジェムストーン(gemstone)、ジュエル(jewel)、プレシャスストーン(precious stone)、セミ・プレシャスストーン(semi-precious stone)。

これらの用語は、たぶん業界の人には自明なのでしょうが、門外漢には今ひとつよく分かりません。とりあえず、ウィキペディア(日本語版、英語版)を参照したら、以下のようなことが書いてありました。

まず、ジェムストーンジュエルとは「宝石」、すなわち宝飾たりうる石のことで、最終的に加工されて宝飾品となったものは「ジュエリー(jewelry)」と呼び名が変わります。
そして、宝石の中でも、とりわけ価値が高く、高値で取引されるのが「プレシャスストーン(貴石)」で、現代の慣行によれば、ダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルドの4種がそれに当たり、それ以外はすべてセミ・プレシャスストーン(半貴石)」に分類される由。(←英語版ウィキペディア「Gemstone」の項参照)

しかし、上の区分も絶対ではないらしく、日本語版ウィキペディアで「貴石」を引くと、国や専門家によりその基準は異なり、宝石業界内でも統一されていない」とした上で、上記の四大宝石に加え、アレキサンドライト、トパーズ、ジルコン、アクアマリン、キャッツアイ、トルマリン、ガーネット、ペリドット、カンラン石、ヒスイ、オパールも貴石の仲間に挙げています。
まあ、商策上「貴石」の範囲が広い方が、何かと便利なのかな…という気はします。

   ★

ちょっと皮肉な書き方になりましたが、宝石の仲間にも浮き沈みがあり、価値が出たり引っ込んだりするのは確かなようです。そうした価値の転換を大規模に、しかも一代で成し遂げたのが、ブラジルのハンス・スターン(Hans Stern、1922-2007)なる人物。

その伝記を、これまた英語版ウィキペディア(http://en.wikipedia.org/wiki/Hans_Stern)を参照して、かいつまんで要約してみます。

ハンス・スターン(ドイツ語読みすればシュテルン)はエッセンに生まれたユダヤ系ドイツ人で、第2次大戦勃発とともに17歳でブラジルに移住しました。

早くから宝石業界で働き始めたスターンは、それまで軽視されていた、多くの色鮮やかな石を採鉱現場で目にし、これを外国からの旅行者相手に販売してはどうか…と考えました。こうして1945年に産声を上げたのが、「H. Stern(アガ スターン)」社です。
彼の目論見は見事大当たりし、今やブラジルの宝石産業はドル箱ですし、彼の会社は全世界に150以上の店舗を展開するまでになっています。

(H. Stern ラスヴェガス店。撮影:Gryffindor、Wikimedia Commonsより)

スターンの業績を一言で云えば、要するに半貴石の地位向上です。

「主要な国際宝石研究機関が、有色宝石に与えていた『semi-precious』という定義をこぞって改め、以来『precious colored stones(有色貴石)』と呼ぶようになったとき、彼の人生の大きな目標の1つは達成された。スターンは『‘半妊娠’の女性や‘半正直’な男がいないように、半貴石も存在しない』というフレーズを残した。」

後にニューヨークタイムズは、彼のことを「king of the colored gems(有色宝石の王)」とたたえました。

   ★

ちょっと不似合いな宝石の話題を出したのは、スターン社の可愛いお土産品を見かけたからですが、ちょっと長くなったので、モノの方は次回に回します。

(この項つづく)