静かに涼しく燃える炎2016年01月13日 22時13分47秒

今日の月齢は3.1。
仕事帰り、爪切りでパチンと切ったような月が西の空にかかっていました。

   ★

さて、連想しりとりで話題を続けます。


写っているのは、コルク栓のはまったガラス瓶。
全体の高さは11.5cmですから、そう大きな瓶ではありません。
これが何かは、背面のラベルに記されています。


原子核の周りを回る電子の軌道変更と、それに伴う光の放出を描いたイラスト。
そして上部には、「FLAME REACTION (炎色反応)」の文字。

熱エネルギーで励起した電子が基底状態に戻る時、各元素に固有の光を放つ…
と聞いて、パッと理解できる人は少ないでしょう。もちろん私にも分かりません。(そもそも、こういう端折った説明は、たいてい正確さを犠牲にしているので、聞いているときは何となく分かった気になっても、後から考えるとよく分からないことが多いものです。)

ともあれ、そのメカニズムが分かるよりもずっと早くから(遅くとも18世紀の終わりには)炎色反応は化学者に知られており、新元素発見の手がかりともなったのでした。

   ★


この小瓶は、Snかすてらさん―Snは錫(すず)の原子記号で、「すずかすてら」さんとお読みします―が、「アルケミノート」のブランド名で発表されている作品の1つで、商品名は「Flame Reactor

中のレジン製キューブには、それぞれ原子記号が書かれており、暗闇でブラックライトを当てると、各元素の炎色反応に対応した蛍光を発するよう仕組まれています。


その理科趣味に富んだ機知といい、美しい表情といい、見るなり思わず膝を打ちました。


夜空を彩る花火も、炎色反応の美しい応用です。
この小瓶は、さながら机上で愉しむ涼しい花火であり、小さなケミストの不思議なラボラトリーといったところです。

アルケミノート: http://alchemynote50.blog.fc2.com/
■「Flame Reactor」商品ページ: https://suzu.booth.pm/items/63977


コメント

_ S.U ― 2016年01月14日 19時33分04秒

>励起した電子が基底状態に戻る時、各元素に固有の光を放つ

この記述の理解し難さに関して、私には高校時代の思い出があります。物理好きの同級生が次のような問題提起をしてきました。

 「原子において、原子核の周りに複数の電子軌道があることは認めよう。各軌道についてそれぞれ位置エネルギーが決まっているのもよしとしよう。だとすると、ある軌道から別の軌道に移る時にその位置エネルギーの差に対応するエネルギーの光が出るとエネルギーが保存する、というのは問題がないように見えて、実はそこに問題がある。」

というのです。

 「放出される光の波長が決まっているのだから、それに対応するエネルギーを持つただ1個の光子が放出されるとする。だとすると、光子が放出されるのは、電子が軌道を移る前か後か? 移る前の電子はまだ光を発することが出来ない。移った後では一時的にエネルギーの持ちすぎになる。軌道を移るには短いながらも時間がかかるだろうが、その間に1個の光子を小分けにして放出するわけにもいかない。したがって、エネルギーを保存しながら電子が軌道を移ることは不可能である。」

というのが主張でした。

 私は、その時深い知識も考えもなく、コメントすることができませんでしたが、この指摘がこの現象の問題性を端的に物語っていることは理解しました。その後ほどなく、私たちは不確定性原理を知ることによってこの問題を克服できたのですが、今思えば、上記の記述の難解さは、エネルギーと時間についての不確定性原理の説明がすっ飛ばされているところにあるのではないかと思います。

 まあ、細かいことは抜きにしても、この美しい色の原子の光が電子の動きのどのタイミングで出ているのか想像していただくのも一興ではないかと思います。

_ 玉青 ― 2016年01月14日 20時42分33秒

おお、少年剣士が刃を交わしているような、凛と緊張感のある場面ですね。
極微の世界を、日常世界の物体の振る舞いを元にイメージすると、こういう矛盾や不可思議がちょくちょく顔を出しますが、私だったら「それこそが、極微の世界では日常世界と違う論理が働いていることの証明じゃないか」と簡単にまぜっかえして、その場をやり過ごすところです。でも、S.Uさんやご友人は、そんなことでは誤魔化されなかったでしょう。栴檀は双葉より芳し。おそらくこういうところに、その人の科学する態度が本物かどうか示されるのではありますまいか。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック