明治の動・植物実習図を眺める(後編)2017年10月08日 08時36分58秒

19世紀最後の年、1900年。そして20世紀最初の年、1901年。
世紀をまたいで講じられた、動・植物実習の講義用図譜の中身とは?

それを昨日に続けて見てみたいのですが、その前に訂正です。
昨日は、第1図をツユクサと書きましたが、ツユクサの前に「サルスベリ」の図があるのを見落としていました。結局、図譜の総枚数は31枚で、彩色図は27枚です。

(こちらが本当の第1図、サルスベリ(部分))

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さて、この実習で目に付くのは、かなり植物重視の教程になっていることです。
まず、冒頭のサルスベリから始まって、ツユクサ、シュウカイドウ、クサギ、ソバ…と身近な植物(昔風にいえば「顕花植物」)の構造と分類の講義が続きます。

(クサギ)

(サンシチソウ)

その後、顕微鏡の構造と取り扱いの学習があって、そこからはノキシノブ、サンショウモ、キノコ類、ヒジキ…といった「隠花植物」の講義と、各種植物細胞(でんぷんや根・茎・葉の組織)の観察が続きます。

(顕微鏡の図)

(カビと根粒菌の観察)

(ネギを素材にした、各種染色法による細胞の観察)

ここまでで全31枚中、23枚の図版が費やされています。
そして、残りの8枚が「動物篇」ということになるのですが、そこに登場するのはヒルとカエルのみです。この図譜が前回推測したように、上野英三郎氏による農科大学の講義ノートとすれば、以上の教程も納得がいきます。(ヒルとカエルの選択も、無脊椎動物と脊椎動物の代表ということでしょうが、いかにも農の営みを感じさせます。)

(ヒルとその解剖)

カエルについては、全部で7図を費やして、内臓から筋肉の構造、神経系や循環系、そして最後に骨格の観察に至ります。

(前回の写真は色が濃く出過ぎています。今日の方が見た目に近いです。)




おそらく仕上げとして、カエルの骨格標本を作って、学生たちは1年間の実習の思い出として各自持ち帰ったのでしょう。

東大のインターメディアテクには、今も古いカエルの骨格標本がたくさん並んでいて、あれは理学部・動物学教室に由来する明治10年代のものだそうですが、その頃から、学生たちはせっせとカエルの解剖に励んでいたんじゃないでしょうか。

(西野嘉章編、「インターメディアテク―東京大学学術標本コレクション」、2013より)