フェルスマンの大地へ2019年06月07日 06時41分05秒

昨日のフェルスマンの原著を買ったのは8年前のことですが、フェルスマンへの傾倒は、その後もずっと伏在していました。


去年の6月、ソ連生まれの岩石・鉱物標本セットを見つけたとき、それがただちに甦り、これでフェルスマンの古い友人たち――彼が目にし、手にした石たち――に、ようやく会えると思ったのです。

(『おもしろい鉱物学』原著付図。広大なソ連の主要鉱産地)

標本自体は1960年代のものらしいので、フェルスマンよりも後の時代のものです。
箱もプラスチック製の安手な感じですが、そこに居並ぶ石たちは、たしかにフェルスマンの故国の住人たちです。


律儀に整形された、30種類の石たち。


標本に付属する内容一覧は、当然ロシア語で、一瞬くじけそうになりますが、ここが踏ん張りどころ。これを無理にでも読み下さなければ、フェルスマンの故国への扉は開きません。その頑張りの成果が以下。

■内容目録 鉱物・岩石30種標本
1 苦灰石中の天然硫黄/トルクメニスタン、ガウルダク〔マグダンリー〕
2 黄銅鉱を伴う斑銅鉱/南ウラル、ガイ
3 閃亜鉛鉱/カザフスタン、ジャイレム
4 並玉髄(コモン・カルセドニー)/カザフスタン、ジャンブール
5 斜方晶チタン石(sphene prismatic crystal)/コラ半島
6 雄黄(orpiment)/キルギスタン、アイダルケン
7 アマゾナイト/コラ半島
8 金雲母/コラ半島
9 ラズライト(青金石)/パミール、ランジュヴァルダラ(? Lanjvardara)
10 ばら輝石/ウラル、クルガノヴォ
11 榴輝岩(エクロジャイト)中の苦礬柘榴石(くばんざくろいし)/南ウラル、シュビノ
2 蛇紋石/ウラル、バジェノボ
13 青色方解石/バイカル、スリュジャンカ
14 アイスランドスパー(氷州石)/エヴェンキア〔中央シベリア〕
15 石膏(劈開模様あり)/トルクメニスタン、ガウルダク〔マグダンリー〕
16 透石膏/ウラル、クングル
17 粒状燐灰石/コラ半島、ヒビヌイ山脈
18 菱苦土鉱/ウラル、サトカ
19 蛍石/裏バイカル地方
0 アマゾナイト花崗岩/カザフスタン、マイクル(? Maikul)
21 黒曜石/アルメニア
22 貝殻石灰岩/マンギスタウ半島〔カザフスタン〕
23 ピンクマーブル/バイカル、スリュジャンカ
24 蛇灰岩(オフィカルサイト)/ウラル、サトカ
25 砂金石(アベンチュリン)/ウラル、タガナイ
26 赤色珪岩(ラズベリー・クォーツァイト)/カレリア、ショクシャ
27 リスウェナイト(Listwanite)/ウラル、ベレゾフスキー
28 碧玉/ウラル、オルスク
29 ウルタイト(urtite)※※/〔コラ半島〕ヒビヌイ山脈
30 魚卵状(oölitic)ボーキサイト/カザフスタン、アルカルイク

   ★

当然、誤読・誤解・誤訳もあるでしょう。それでも、ウラル、カザフスタン、コラ半島…etc.の文字の向こうに、『石の思い出』の世界が、鮮やかによみがえります。


ここには少壮のフェルスマンが、選鉱台上を黒い帯となって流れるのを見つめた、アルタイ山地の閃亜鉛鉱(第1章)もあれば、


勇敢なソビエトの地質学者が、苦闘の末に見つけた、パミール高地のラピスラズリ(第13章)もあり、


古い石膏細工の村で、職人たちが手にしたクングルの透石膏(第4章)があるかと思えば、


北のコラ半島で鉄道新駅の名前の由来となった、同地の燐灰石(第15章)もあります。


そして、世界有数の模様と色彩でフェルスマンを幻惑した、オルスクの碧玉(第12章)も…。

   ★

嗚呼、フェルスマン博士よ―。
極東の島には、今もこうして博士のことを敬慕する人間が、たしかに少年の瞳は失ってしまったけれど、それでも石の物語に耳を澄まそうとしている人間がいるのですよ…と手紙を送りたい気分です。


以上が、私の“『石の思い出』の思い出”です。

(この項おわり)


【註】
Listwanite(リスウェナイト)はオフィオライト中の変質した苦鉄質岩を表す用語であ り、〔…〕ウラル地方の金鉱床地帯やソビエト国内のその他の金鉱徴地において主としてロ シアの地質学者の間で使用されてきた」 (→LINK

※※Urite  主として霞石(岩石の約85%)と強磁性鉱物(エジリン輝石、エジリン-普通輝石、およびソーダ-鉄角閃石)から成る粗粒の火成岩。 その名はロシアのコラ半島にあるLujaur-Urtに由来し、不飽和閃長岩の一種である。」 (→LINK