アストロラーベ再見(5)2022年03月15日 19時48分35秒

アストロラーベと星座早見盤には、もう一つ大きな違いがあります。
それは日時の指定法の違いです。

星座早見盤を使う場面を思い浮かべてください。星座早見盤だと、星図盤の外周に日付目盛が、また地平盤の外周に時刻目盛があって、両者を組み合わせることで、任意の日付の任意の時刻の空を再現することができます。

(3月15日の20時に合わせたところ。2月28日の21時や、3月30日の19時に合わせても同じことです)

しかし、アストロラーベの場合、マーテルの外周部に時刻目盛(と方位目盛)はありますが、マーテルにもレーテにも、日付目盛に相当するものが見当たりません。

(①時刻目盛、②方位目盛)

では、アストロラーベには日付目盛がないのかといえば、ちゃんとあります。
それは、天球上を1年で1周する太陽の位置を日付目盛の代わりに使うというものです。


そのため、レーテには黄道が目立つ形で描かれており、そこに黄経が度盛りされています。こんなふうに、天球上での太陽の位置を重視する点が、アストロラーベの大きな特色で、それによって、アストロラーベは日時計の代わりにもなるし、星座早見盤以上にいろいろな天文現象をシミュレートすることができます。

任意の日付の太陽の位置を知るには、マーテルの裏面を使います。



裏面の周縁には、カレンダーと太陽の位置(黄経)が並んで書かれており、アリダードを使って、その日の太陽の位置を簡単に読み取ることができます。例えば3月15日の太陽は、黄経355°の位置にあります(上図)。

次いで、裏面で読み取った値を、表面の黄道目盛に当てはめれば、その日の天球上での太陽の位置が即座に分かります。


上の写真は3月15日、すなわち黄経355°の太陽が地平線上に来たところ。その地上座標から、日の出の方角も分かります(ほぼ-90°つまり真東です。本当に真東から日が上るのは3月21日の春分の日ですが、これぐらいは許容範囲でしょう)。


補助具であるルーラーを使えば、3月15日の日の出は、ちょうど6時頃と分かるし、そのままルーラーを黄経355°の位置に固定して、レーテと一緒にぐるぐる回してやれば、ルーラーの指す時刻に応じて、夜8時の星空だろうと、深夜0時の星空だろうと、お好みのままです。この辺の操作感は、星座早見盤とほとんど同じです。

また、これらの応用として、「日没とともにシリウスが東の地平線から上るのは何月何日か?」とか、「〇月〇日に太陽が40°の高さにあるとき、その時刻は?」という問いにも答えられます(後者は要するに日時計としての用法です。なお天体の高度を測るのにも、裏面のアリダードを使います)。

(アリダードの両端に付いた木片のV字形の切れ込みが、高度測定の視準孔になります。)

実際には、さらに均時差とか、不定時法とか、各種の薄明線とか、いろいろな小技や応用技があって、それらを極めると、いよいよアストロラーベ使いの達人になるわけですが、アストロラーベの基本的な用法は、以上に尽きると思います。

   ★

どうでしょう、ここまでくると、アストロラーベが「昔の人が使った何だか不思議な道具」ではなくて、明快な輪郭を備えたデバイスと感じられないでしょうか。
…でも、ロマンというのは神秘のベールに包まれてこそ輝くものですから、不思議な感じがなくなると、それはそれで淋しい気もします。

(この項おわり)

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック