ジョバンニが見た世界…銅の人馬(3)2013年01月06日 18時29分15秒

さて、そんなわけで地味に重要な人馬像。

 いろいろな宝石が海のような色をした厚い硝子の盤に載って
 星のようにゆっくり循ったり、また向う側から、銅の人馬
 ゆっくりこっちへまわって来たりするのでした。 

時計屋のショーウィンドウの中では、それが何らかの仕掛けによって、ぐるぐる回転しているらしいのですが、どんなふうに回っているのかは謎です。

「銀河鉄道の夜」の各場面を描いた挿絵画家や漫画家の方にしても、人馬像をただ漫然とそこに置いたり、あるいは最初からまったく省略してしまう人が多くて、果敢に「人馬回し」に挑戦されているのは、管見の範囲では田原田鶴子氏ただ一人です。

(田原田鶴子・絵、『銀河鉄道の夜』、偕成社、2000年)

田原氏は、人馬だけが単一で回るのではなしに、いろいろの宝石と一緒に青い硝子盤に乗って、それら全体が回転しているという解釈を取ります。

いっぽう小林敏也氏や、佐藤国男氏は「漫然派」で、回転機構は特に描かずに、何となく添景として画中に登場させています。

(小林敏也・画、『銀河鉄道の夜』、パロル舎、1984年)

(佐藤国男・木版画、『銀河鉄道の夜』、北海道新聞社、1996年)

時計屋の店先を再現する試みにおいて、人馬を本気で回転させようと思えば、私も田原説に立ちますが(それが一番シンプルだと思うので)、まあ小林氏のように、漫然とそこにあるだけでも雰囲気としては十分でしょうから、とりあえず適当な人馬像を入手することにしました。

eBayを覗くと、ケンタウルスのブロンズ像として、以下のようなマスプロ製品が大量に売られています(画像のみ借用)。ただ、私の部屋に置くと絶対に違和感がありますし、何よりも妙に大きかったり重かったりするので、いかに銀河鉄道のためとはいえ、そこまでして貴重な空間を犠牲にすることはできません。



結局、「小ぶりで軽い」というのを決め手にして、以下のような像を買いました。


これはアメリカのアーティスト、 Fred Press(1919-2012)がデザインした人馬像で、高さは約24cm。たぶん本来の用途は、ブックエンドだと思います。ですから、製作年代にしろ、造形にしろ、この品があの場面にふさわしいと主張する気は毛頭なくて、純粋に雰囲気だけの、あくまでも「参考出品」という位置づけです。
(なお、台座に「射手座 Sagittarius」とありますが、肝心の弓矢を持っていないので、これはケンタウルスと呼ぶ方が適当だと思います。)



右下は、将来、田原説に従う場合を想定して、おまけで用意した小さな真鍮の人馬像(こちらは射手座でしょう)。


なお、青銅は銅+錫、真鍮(黄銅)は銅+亜鉛の合金です。

コメント

_ S.U ― 2013年01月07日 07時28分44秒

本年もよろしくお願いいたします。

 佐藤国男氏の版画の人馬は普通のさえない青少年のような顔で面白いです。

 さて、「銀河鉄道」のショウウィンドウの人馬像は、私にはずっと射手座である印象があって、矢をつがえたまま回っている状況を考えていました。それは、おそらく(間違いなく)「射手座がさそりを狙ってずっと空をぐるぐる回っている」というプラネタリウム式の説明を無意識のうちに前提にしていたものと思います。「銀河鉄道」の人馬像の考察はひとまず脇に置くとして、これは、かなり多くの人の無意識にあるイメージではないでしょうか。

 これは、射手座が西を向いているからこそできる説明です。いっぽうのケンタウルス座は槍でおおかみ座を突いているようですが、東に向いていて日周運動はあとずさりになります。この状況から、私には、射手座には動的な印象が、ケンタウルス座には静的な印象がありました。改めて思えば仁王像か狛犬の左右の阿吽のような配置です。

 しかし、今回の玉青さんのご説明ではケンタウルスでは獣人性が強調されているということで、いっぽうの射手座のケイロンは知性を併せ持っていることから、両者の動的静的の対応は逆のほうが適切であるようにも思います。また賢治が考えたケンタウルスや「銀河鉄道」のケンタウルス祭のイメージはケンタウルスの何らかの性格を前提にしたものだったと思います。二説が拮抗しているように感じます。そうなると、ショウウィンドウで回転する人馬像だけは、ストーリー全体と切り離して、「やはり射手座だった」というのは...許してもらえないでしょうか。

_ 玉青 ― 2013年01月07日 17時17分56秒

よろしい、特別に許すことにしましょう。(笑)

…まあ、許すも許さないも、ケンタウルスと射手は、たしかに星座としては別星座ですが、その名称も伝承も2千年来ごっちゃになっているらしく、最早どっちがどうと、しかつめらしく区別するのも、かえって滑稽かもしれません。私が今回の記事に書いたことも、過半は冗談と思っていただければ幸いです。

どうぞS.Uさんのお好きなイメージで、ショーウィンドウをお飾りください。

_ S.U ― 2013年01月07日 20時32分04秒

>特別に許すことにしましょう

 ありがとうございます。お許しいただいて助かりました(笑)。
 私は、玉青さんのお説は、どれもうーんとうなりながら熟思して読んでおりまして、かりそめにも冗談として聞き流したりすることなぞありませんぞ。(笑笑)

++ 本日(1/7)ぶんに関する感想ですが、++
KAGAYAさんのプラネ番組もすばらしかったですね。黄道座標と赤道座標の両方が引かれている古そうな天球図や星座掛図が採用されているのは芸が細かいです。

_ 玉青 ― 2013年01月08日 21時18分30秒

どうぞ熟思の前に、眉に唾を(多めに)つけることをお忘れなく…(^J^)

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