星座の海 ― 2013年06月09日 15時39分12秒
(まだリハビリ中ですが、本来の記事も少し書いてみます。)
2年前に、以下のような記事を書いたことがあります。
内容は、野尻抱影の天文随筆集、『星の美と神秘』(1946)で知った、地上の河をどこまでもさかのぼると、天の川につながっていた…という中国説話について触れたものでした。
唐代の李白の詩にも
君不見黄河之水天上来 (君見ずや 黄河の水 天上より来り)
奔流到海不復回 (奔流し海に到って 復た回〔かえ〕らざるを)
の句があり、この観念は古くから中国の人の心に刻み込まれていたもののようです。
遥かなる大地の果てから流れ来たる大河、
遠い地平線の向こうから悠然と立ち上がる銀河、
彼の地の風土を考えると、その両者が遠いどこかでつながっているという観念も、ごく自然なものに思えます。
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上の記事を思い出したのは、最近、1冊の美しい本を手にしたことがきっかけです。
それは版画家の関根寿雄(せきねとしお、1944~)氏の作品集、『星宿海』。
(本体と外箱。判型は約25.5×18cm)
星座をモチーフにした彩色木版画が12枚、それに序文と奥付も版木に彫ったものなので、都合14枚の版画を折本仕立てにした、私家版の作品集です(1986)。
その中身は改めて見ることにして、床しく思ったのは、そのタイトルです。
「星宿」とは星座の古い言い方。ですから「星宿海」とは、天空を星座の海にたとえてネーミングしたのだろうと、最初は思いました。
しかし、実は星宿海という土地が、この世界に実際にあるのだそうです。
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星宿海は黄河の源流。
そう、黄河をさかのぼると、確かにそこは星の海だったのです(びっくり)。
四川・甘粛のそのまた向こう、中原の地を遠く離れた現・青海省に星宿海はあります。
ここは漢土の西、中国歴代王朝とチベット・モンゴル・西方諸民族が、長きにわたって覇を競ってきた異域です。
上のグーグルの地図のうち、バルーン表示は無視していただいて、中央の「青海」の2文字に注目してください。その右下に、2つの湖が仲良く並んでいるのが見えるでしょうか。
拡大すると、ザーリン湖(左)とアーリン湖の名前が見えてきます。
両方合わせて中国では「姉妹湖」と呼ぶそうですが、その水は冷たく澄み、ザーリン湖は青白、アーリン湖は青藍の色合いをたたえていると言います。そしてこの2大湖周辺の湖沼地帯の名称が「星宿海」。その風景は、下のページで瞥見することができます。
それにしても、何と透明で、切ないまでに美しいイメージでしょうか。
現実の風景も、それを裏切らない清澄さをたたえているのが、何だか奇跡を見るようです。
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関根氏の『星宿海』も、この美しい地名に想を得た連作で、天文趣味の上からも注目に値する作品なので、その内容をさらに見てみます。
(この項つづく)
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