空の旅(4)…オリエントの石板とアストロラーベ2017年04月16日 17時56分05秒

天文アンティークというと、何となく西洋の品に目が向きがちですが、天文学が生まれ育った土地は、いわゆる西洋の外側です。

昔々、天文学が発達したのは、四大文明発祥の地ですし、栄えあるギリシャ科学を受け継ぎ、発展させたのは、東方のヘレニズム文化と、その後のサラセン文化でした。

まあ、わが家にそんな歴史遺産があるわけはありませんが、それでもそうした事実をイメージさせる品を並べて、天文アンティークの枠を少し広げたい気がしました。

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(説明プレートはantique Salonさんに作っていただきました)

たとえば、以前も載せた紀元前の天文石板(正確には粘土板)と、はるか後代のアストロラーベ


残念ながらいずれも複製品ですが、本来の絶対時間でいうと、ここには2千年近くの時間差があります。

しかし――あるいはだからこそ――両者を並べて見る時、西アジアで星座が生まれた遠い昔のことや、精巧な儀器を生み出した工人の黒い指先、星の運行の秘密を解き明かした学者先生の長いあごひげ、そして彼の地の人々が星を見上げて過ごした幾十万もの夜の光景などが、いちどきに思い起こされて、何だか西域ロマンにむせかえるようです。

今、安易に「ロマン」という言葉を使いましたが、ナツメヤシの葉擦れ、乾いた透明な空に輝く満天の星、研ぎ上げた鎌のような新月…こうした状景は、暗い北ヨーロッパの人にとっては、実際ロマンに違いありません。

その心情を、欧州の人が心置きなく吐露できるようになったのは、ヨーロッパがイスラム世界を軍事的・文化的に圧倒した、近代以降のことですが、中世の十字軍などというのも、あれは一種の東方コンプレックスに基づく振舞いだったのでしょう。

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ここで、解説プレートの文字を転写しておきます。

石板の方は、「紀元前200年頃、古代オリエントのセレウコス朝期の天文暦の一部(複製)。有翼の蛇に乗る獅子と、その先に輝く木星が粘土板に刻まれています。獅子は今の「しし座」、蛇は「うみへび座」に当たると言われます。」

そして、アストロラーベの方は、「17世紀、アラビア海周縁のインド-ペルシャ世界で使われた両面アストロラーベ(複製)。表面と裏面が、それぞれ南北両天に対応しています。円盤の中心は天の北極・南極を、唐草模様の葉の尖端は主要な恒星の位置を示しています。アストロラーベは、天体の位置を簡単に知ることができる道具として、イスラム世界で特に発達し、中世後期以降はヨーロッパでも作られるようになりました。」

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石板の方は既出なので、以下、アストロラーベの細部を見ておきます。


アストロラーベのレプリカは、今もインドで大量に作られていて、その大半は土産物的な粗悪な品です。時代付けして、「アンティーク」と称して売っているものもありますが、そうなると完全なフェイク(偽物)です。

上の品は同じレプリカでも、ごく上手(じょうて)の部類に属するもので、かなり真に迫っています。最初からレプリカとして販売されていたので、フェイクではありませんが、黙って見せられたら、一寸危ないかもしれません。(そもそもアストロラーベのフェイクは、昔からさまざまあって、グリニッジのコレクションにもフェイクが混じっていることを、グリニッジ自身が認めています。)


このアストロラーベは、上記のように、両面使えるところが特徴で、後の南北両天用の星座早見盤の元祖のような品です。


安易な鋳造ではなく、彫りの技によって正確に線を刻んでいる点に、作り手の本気具合を感じます。



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どうでしょうか。ともあれ、ヨーロッパだけを見ていては、「空の旅」もロマンに欠けますし、旅の全行程のごく一部しかたどることはできません。

空を見上げながら、さらに遥かな旅を続けることにします。

(この項つづく)

コメント

_ S.U ― 2017年04月17日 07時20分22秒

星座、天文早見盤の類は、農業や墳墓と並んで実体物につながる文化遺産としては世界最古のものと思いますが、ほぼ同型の物がいまだに「現行」として通用していて、間違いなく「解読」できるところがすごいと思います。
 
 またも質問であります。
 このアストロラーベの唐草模様のようなものは何なのでしょうか。単なる飾りなのでしょうか。そうだとすると、ここまで多くなくとも、下の盤が相当見にくくなるだけのように思います。

_ 玉青 ― 2017年04月18日 23時12分36秒

唐草の葉先は恒星のポインター、葉っぱは星名を表示するスペースで、なかなか洒落た工夫だと思いますが、確かに下の目盛りは読み取りにくいですね。まあ、これも金属素材を用いたことによる限界であり、如何ともし難いところでしょう。透明なプラ板さえ使うことができれば、古の工人も悩まなかったと思いますが、でも今にして思えば、そうはならなくて本当に良かったなあ…と、華麗な唐草を前に思います。(^J^)

_ S.U ― 2017年04月19日 07時17分37秒

>唐草の葉先は恒星のポインター
ありがとうございます。そうでしたね。葉っぱの先が恒星であるというのは、どこかで聞いた気がします。しかし、星名を記すために下の目盛りが読み取りにくくなっているなら本末転倒ですね(笑)。

>透明なプラ板
 そういや早見盤の類に、ガラスや水晶を使った物をあまり見ないようですが、かえって光が屈折して見えないからでしょうか。高価にはなりますが、どうせ天文機器はどれも高価ですよね。

_ 玉青 ― 2017年04月20日 07時08分14秒

ガラスや水晶の早見盤は、往時の技術でも実現可能だったと思いますが、その存在を見聞きしたことはありません。もしも在るのなら、ぜひ見てみたいです。実に美しいものでしょうね。

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