飛行機から見た星(後編)2018年01月23日 21時30分39秒

この星座盤は、4層(4ページ)から成っています。

まずは星座盤のページ。丸い星座盤本体は、普通の星座早見同様、日にちと時刻を合わせられるよう、真ん中の鋲留めを中心にぐるぐると回転します。

(北天用星図)

その次に、星の見える範囲をぐるっと切り抜いたマスクページが来ます。
日にちと時刻をセットした星座盤に、マスクページをかぶせれば、その日・その時、空に見える星たちが、そこに表示されます。


マスクページと星座盤は、さらに南天用のものが1セットあるので、合計4ページというわけです。


ちなみに、この星座盤が表現しているのは、北緯50度(ヨーロッパ北部とアメリカ中北部)と、南緯35度(オーストラリア南部、ニュージーランド、南アフリカ、アルゼンチン)から見た空です。厳密には、そこから外れるとマスク盤の「窓」の形状を変えないといけないのですが、著者のチチェスターは、「南緯35度~北緯70度の範囲ならば実用に差し支えない」と書いています。

   ★

ところで、前回、この星座盤を見て大いに感ずるところがあった…と書きました。
それは、星座盤の裏面解説で「星の覚え方」という解説を読んだときのことです。


チチェスター大尉は、こんな手順を推奨しています(以下要旨)。

(1)まず南北両天の「マスターグループ(MASTER GROUP)」を覚えなさい。
(2)次いでマスターグループに付随する「キーグループ(Key Groups)」を覚えなさい。
(3)次いでそれらに属する航行指示星(navigation stars)を覚えなさい。
(4)さらに、それ以外の航行指示星を、最寄りのキーグループとの位置関係で覚えなさい。

ここでいう「マスターグループ」や「キーグループ」というのは、通常の星座とはちょっと違います。

北天でいうと、「北斗グループ(The Plough Group)」がマスターグループになります。北を見定める一番の手掛かりというわけでしょう。この北斗グループには、北斗七星と、ひしゃくの柄を伸ばした先にあるアークトゥルス(うしかい座)やスピカ(おとめ座)が含まれます。

さらにキーグループに挙がっているのは、「大鎌グループ(The Sickle Group、しし座のいわゆる「獅子の大鎌」の星々)」、「ペガススグループ(The Pegasus Group)」、「オリオングループ(The Orion Group)」、「北十字グループ(The Northern Cross Group、はくちょう座の「北十字」を中心とした星々」といった区分けです。

例えば「ペガススグループ」は、星座のペガスス座に限らず、その周辺に広がる一大グループで、ペガスス座の大四辺形と、その上底を伸ばした先にあるミラク(アンドロメダ座)、ミルファク(ペルセウス座)、その近傍に光るハマル(おひつじ座)、アルゴル(ペルセウス座)、四辺形の向って右辺を南に延長したフォーマルハウト(みなみのうお座))、さらにペガススの北に固まるカシオペヤ座のWを含んでいます。

ここでもう一度同じ星図を掲げます。


チチェスター大尉の説明を読み、この星図を眺めているうちに、「うーむ、これこそ現代の我々に必要な星座早見盤ではあるまいか…」と思ったのが、今回私が深く感じたことです。

(星座盤の星名一覧)

通常の星座早見盤に比べて、1等星と2等星の一部しか載っていないこの星図は、いかにもスカスカです。でも、最近の都会地で見上げる空は、ひょっとしたら、これよりもっとスカスカです。街中で暮らす子供たち(大人も)に必要なのは、実はこういう星座早見であり、そして大尉が推奨する星の覚え方なんじゃないかなあ…と思ったわけです。

そしてまた、星の乏しい環境では、星座名を覚えるよりも先に、恒星の固有名を覚える方が簡単だ――少なくともリアリティがある――ということも同時に感じました。「本当はあそこに星があって、あっちの星と線で結ぶとこんな形になって…」と、見えない星座のことをあれこれ考えるのは侘しいものです。だったら、いっそありありと目に見える恒星の名を先に覚えてしまえ…という、これはちょっとしたコロンブスの卵。

   ★

結論として、この星座盤は昔の飛行機乗りだけではなく、現代を生きる我々にピッタリの、チチェスター大尉からの素敵な贈り物じゃないでしょうか?

コメント

_ ひろせ ― 2018年01月24日 02時45分30秒

大変貴重なものを見させていただきました。ありがとうございます。
こうしたナビゲーションに特化した星図も歴史上で一定の存在感があったはずなのに語られることが少ないのでとても興味があります。
星座を無視して明るい恒星にフォーカスするという点には大いに賛同します。誰かに解説する際に星空に親しんでいただくことを目的とした場合、星座の存在がかえって邪魔になることが多いので難しいです。

_ S.U ― 2018年01月24日 06時46分59秒

これを学校で教えるというのは面白いですね。「春の大曲線」は星図に含まれているし、「夏・冬の大三角形」も同工異曲なので部分的にはすでに実施されているといえます。ただ、その効能というか楽しみ方が教えられているかは疑問です。星座よりはずっとざっくりしていて淡泊ですからね。
 
 私には例によって、飲み屋の帰りに方向感覚がなくなった時に役に立つというくらいのことしか思いつきませんので、子供向けにはもうちょっと別のことを考えたいと思います。 それから、恒星のついでに、惑星の見え方も覚えるのがいいと思います。

_ 玉青 ― 2018年01月25日 22時43分06秒

○ひろせさま

ありがとうございます。ひろせさんの賛同を得て、大いに意を強くしました。
まあ、本当は満天の星がいいに決まってますが、今置かれた環境で、精いっぱい宇宙の大きさを感じられるような感性を、いつも大事にしたいと思います。

○S.Uさま

あはは、「呑み助のための星座盤」にも一定の需要はありそうですね。
でも、家路を見失うぐらいの状態で、果たして盤を正しく操作できるものかどうか…。仮に操作できるとしても、酔眼に1つの星が2つにも3つにも分裂して見えるようだと、かえって道を誤りかねず、はなはだ危なっかしいですね。

_ S.U ― 2018年01月26日 06時50分58秒

>呑み助~盤を正しく操作
 そうですね。呑み助さんには、星座盤で事前に十分に鍛錬され、そらでも星で方角がわかるようになられることを推奨いたします。

 酔漢の星の名喚きて大路行く

(「喚きて」は「おめきて」と読んで下さい)

_ 玉青 ― 2018年01月28日 11時51分56秒

>そらでも星で方角がわかるようになられることを推奨

経験者は語る…というやつでしょうか。(^J^)
ここはひとつ、

  コップ座昏く汲むに汲まれず

と付けさせていただきましょう。

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