世界の終わり ― 2018年06月03日 10時44分58秒
フランスの他愛ないゲームの続き。
「La Fin du Monde」―― 世界の終わり。
彗星からの噴出物は、今や巨大な光球となって膨れ上がり、空は一面紅に染まり、電光が走り、火花が散り、その下を恐怖に顔をひきつらせた人々が逃げまどっています。紳士も、淑女も、寝間着姿らしい人も。(左下の紙幣を握りしめて、黒い帽子をかぶった人は、ユダヤ人への当てこすりかもしれません。)
これは当然、1910年のハレー彗星接近をテーマにした品でしょう。
それにしても何と大仰な。
どんなに恐ろしいゲームかと思って、右脇の説明文を読むと、「地球を表す木球のてっぺんに、彗星を引っ掛けるべし」と書かれています。また、左脇には昨日の品と同じ「M.D.」というメーカー名が見えます。
おもむろに蓋を開けるとこんな感じで、中身は驚くほどスカスカ。
これが問題の木球で、てっぺんに小さなフックが見えます。ここに金色の彗星の穴を引っ掛けて、彗星を地球でつかまえてしまおうというゲームです。(そうすると、いっそう地上に災厄が続きそうですが、作り手もあまり深くは考えていなかったのでしょう。)
このゲーム、見た目は他愛ないですが、実際にやってみると相当難しいです。
そこで蓋の裏には、これまた親切に<コツ>が記されています。
これはまともにカタカタやって引っ掛けようとしてもダメで、最初から箱をひっくり返して、ガラス面の上で彗星をあちこちさせると簡単にできるよ…ということが書かれています。
どうも、こんなゲームを見ると、当時の人はハレー彗星を恐れるどころか、むしろ大いに楽しんでいたんじゃないかと改めて思います。
★
ところで、すぐ上の画像。よく見ると、メーカー名の記載が、蓋の表では「M.D. PARIS」だったのに、裏側では「JFJ PARIS」になっています。それに、昨日の記事では、M.D. 社は1904年までしか営業していなかったはずなのに、1910年のハレー彗星のおもちゃを作っているのは一寸変です。
実は、M.D. 社は1904年で終わったわけではなくて、他社と合併して1905年に「フランス玩具協会」(Société des Jeux et Jouets Français)を立ち上げており、その略称が「J.J.F.」(ロゴ化して用いるときは「JFJ」と表記)でした。そしてこの玩具を見る限り、フランス玩具協会になってからも、M.D.名義を、部分的に使っていたのでしょう。
なお、フランス玩具協会は、1931年ごろまで営業していた由(→ 参考ページ)。
コメント
_ S.U ― 2018年06月03日 18時51分03秒
_ 玉青 ― 2018年06月04日 21時26分12秒
地球は接着固定されています。
>そう簡単に終わりは来ないほうがリアル
このゲーム、私は彗星を地球に引っ掛けることで災厄を逃れるのが目的…という風に解釈していたのですが、コメントを拝見して、逆に彗星を地球に招来して、この世に終わりをもたらすのが目的なのかも…と思い直しました。そうすると、ものすごくシニカルというか、諧謔の利いたゲームということになりますね。そこがいわばフランス風なのかもしれません。「ほれ、どうだ!」「うわあ、終わった!」とか、笑いさざめきながらやってたんでしょうかね。
ときにこちらで恐縮ですが、「アフェリオン」のルール解説の件、お知らせいただきありがとうございました。助かりました。あれは確かに普通に双六ですね。ご指摘のように、盤面だけで遊びが完結せず、ルールブックを絶えず参照しないといけないのはすこぶる不便で、まだゲームとしては過度期の産物だったのかもしれませんね。
>そう簡単に終わりは来ないほうがリアル
このゲーム、私は彗星を地球に引っ掛けることで災厄を逃れるのが目的…という風に解釈していたのですが、コメントを拝見して、逆に彗星を地球に招来して、この世に終わりをもたらすのが目的なのかも…と思い直しました。そうすると、ものすごくシニカルというか、諧謔の利いたゲームということになりますね。そこがいわばフランス風なのかもしれません。「ほれ、どうだ!」「うわあ、終わった!」とか、笑いさざめきながらやってたんでしょうかね。
ときにこちらで恐縮ですが、「アフェリオン」のルール解説の件、お知らせいただきありがとうございました。助かりました。あれは確かに普通に双六ですね。ご指摘のように、盤面だけで遊びが完結せず、ルールブックを絶えず参照しないといけないのはすこぶる不便で、まだゲームとしては過度期の産物だったのかもしれませんね。
_ S.U ― 2018年06月05日 06時48分10秒
人生生きていると、このさい世界が終わってもよいと思った人も多かったかもしれません。もはやよく憶えていませんが、ノストラダムスの大予言の時も、「どうなるんだろうねぇ」という言ったノリがけっこうあり、これがノストラダムスの警鐘だったとすると、その意味で災厄を避けようという世論はほとんど機能していなかったと思います。最近でも、客観的に見て、「人の世もこのへんが年貢の納め時」と思うことがしばしばです。
>「アフェリオン」
思うに、制作者の意図は盤のデザインをするところで尽きてしまい、「盤がうまくできて余は満足じゃ、ルールは汝プレイヤー良きにはからえ」ということなのかもしれません。それでも、ゲームのルールの値打ちは遊んでみないと真価がわからないものですので、ぜひ1~2時間は遊んでみられるのがよろしかろうと存じます。
>「アフェリオン」
思うに、制作者の意図は盤のデザインをするところで尽きてしまい、「盤がうまくできて余は満足じゃ、ルールは汝プレイヤー良きにはからえ」ということなのかもしれません。それでも、ゲームのルールの値打ちは遊んでみないと真価がわからないものですので、ぜひ1~2時間は遊んでみられるのがよろしかろうと存じます。
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これは面白そうですね。このたわいなさは、おしゃれで理知的な香りの高いフランス文化の信用にまで関わりそうです(笑)。これは、紙製でなく、地球の球形と彗星の切り抜き工作に多少の機械と道具を使ったでしょうから、製造に多少の手間がかかっていると想像すると、さらにおかしさが増します。
この地球は箱に接着されているのでしょうか。これがはずれていると相当難しいと思います。地球の生命は40億年くらいの歴史があるそうですから、そう簡単に終わりは来ないほうがリアルでしょう。