生物のかたち…もう一つの『Art Forms in Nature』(1) ― 2019年04月11日 07時07分08秒
ところで、ブロスフェルトの『芸術の原型』は大層評判を呼んだので、1929年には早々と英語版も出ていて、そのタイトルを「Art Forms in Nature」といいます。
この英題は、同じ名前のまったく別の本を連想させます。
いや、「まったく別」ということはありません。そちらも原著はドイツ語であり、生物の姿形を通して、自然の造形力に驚嘆の目を向けるというテーマにおいて、むしろ大いに共通点があります。
それは、あの有名なヘッケルの『Kunstformen der Natur(自然の芸術的形態)』(1899-1904)です。(その英題が、『Art Forms in (またはof) Nature』。)
(Prestel社版、2004)
エルンスト・ヘッケル(Ernst Haeckel、1834-1919)は、ブロスフェルトとは違って、本職の生物学者だった人ですが、この『自然の芸術的形態』は、画面にみなぎる異様なデザイン感覚から、一種の奇書となり、同時代の芸術家のイマジネーションを大いに刺激しました。こうして今もリプリント版が盛んに流通しているのも、その奇抜さのゆえでしょう。
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この2冊の『Art Forms in Nature』は、その「たくまざる幻想性」という点で相似していますが、それは偶然の一致ではなく、ブロスフェルトは、ヘッケルの直接的影響を受けたのだ…と、ウィキペディア子は記しています。
「『Kunstformen der Natur』は20世紀初頭の芸術・建築・デザインに大きな影響を与え、科学と芸術の橋渡しとなった。特にルネ・ビネ、Hans Christiansen、カール・ブロスフェルト(Karl Blossfeldt)、そしてエミール・ガレ(Émile Gallé)といったアール・ヌーヴォーに傾倒した多くの芸術家らに多大な影響を及ぼした。」
事の当否は不明ですが、時代的には大いにありそうなことです。
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話題をヘッケルの本にしぼります。
この本は、博物画の文脈でも、奇想画の文脈でも、ひところ大いに持て囃されたので、食傷気味に感ずる人もいるかもしれません。それでも、これは面白くかつエポックメーキングな本なので、手元に置かないという選択はありません。
(同上)
これもリプリントの画集が手軽に買えるし、画像だけならネットでも眺められますが、石版の風合いにこだわるなら、やはりオリジナルを…という流れになります。
見ようによっては、まったく無駄な努力ですけれど、まがいの世界が、真正の世界をどんどん侵食している―まさに悪貨は良貨を駆逐する―現状を良しとせず、最後までモノにこだわる人間がいてもいいのです。
(この項つづく)
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