人とモノは出会い、対話する ― 2024年02月03日 16時36分53秒
前回の記事は、おしまいのところを故意にぼかしていました。
実は注文をキャンセルされた私は、天を仰いで嘆くだけでは終わりませんでした。
「じゃあ、フランス国内の(売り手はフランスの人です)個人輸入代行業者を代理人として立てるから、そこに送ってもらえないか?」「まあ、それなら…」ということで交渉成立、かろうじて土俵際でこらえたのでした。(もちろん、そんな「なじみの業者」が都合よくいるわけはありませんから、泥縄で探しました。)
この件を振り返ると、我ながら“年を経た”というか、老練な手管を身に着けたものよ…と、一抹の感慨を覚えます。(まあ、送料の注意書きを見落とすなんて、老練というよりは老耄に近いですが、ここは目をつぶりましょう。)
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先日、こんな本を買いました。
■荒俣宏の「イーベイ」お宝コレクション術 (平凡社、2000)
荒俣宏さんが、今から四半世紀前に書いたeBayの入門書です。
もちろん、今ではまったく実用性のない本ですが、だからこそ歴史的文献として貴重な気がします。ずいぶん前に図書館で手にして、当時すでに内容が時代にそぐわなくなっていたことから、かえって印象に残った本です。
eBayが「eBay」という名称でサービスを始めたのは1997年です。
荒俣さんはその最初期からeBayに注目し、2000年には早くもその指南書を出したわけです。
荒俣さんは「はじめに」で、こう書きます。
「ほしくてもみつからなかったマニア向けグッズが、信じられないほどドンドン手に入る!おかげでわたしは、スリリングでスリリングで、死にそうなほど刺激的に生きるようになった。どうしてそうなったかといえば、これまで経験と人脈が頼りだった趣味の世界が、インターネットのおかげで、だれにも参入可能になったからなのだ。」(p.9)
また「おわりに」には、
「とにかく、ビッドに次ぐビッドで攻めまくり、ひとつずつ具体例に即した知識を獲得していただきたい。〔…〕きみはもう21世紀のとば口に立っている!」(pp.125-6)
ビックリマークから、その当時の興奮が伝わってきます。
そして、これは一人荒俣さんに限らず、多くの人が感じたことでもあったでしょう。
★
私がeBayのアカウントを作ったのは2002年ですから、これまた相当昔のことです。
そして、ネットでしか見つけられないものを次々と目にして、やっぱり相当興奮しました。いや、それは興奮というよりも、一種の「万能感」に近かったかもしれません。
偉大な先人たちですら、話に聞くばかりで、決して目にしなかったであろう珍奇な品々。それをいながらにして我が物にすることができるという驚き。以前も書いたかもしれませんが、これは世界中の珍物・奇宝がヨーロッパに押し寄せ、それに眩惑された「大航海時代」の人々の心情になぞらえることができるような気がします。
しかし、その後、ネットを通じて行き来する情報量がいっそう増加し、その情報の山の中で「手にとることのできる形あるモノ」は徐々にリアリティを失っていき、同時にモノを収集するという行為の意味合いも大きく変わりました。でも2000年当時は、まだモノにリアリティ(価値といってもいいです)を感じる人が、私を含め大勢いたので、収集という行為や、収集家という人種も成り立ちえたのです。
かつてのeBayで見られた「ビッド文化」は、それを背景にしていたのかもしれんなあ…と、今やビッド商品をほとんど目にしなくなったeBayの画面を見て思います。
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とはいえ―。
私という存在がすべて情報に還元されるSF的な未来は知らず、私自身が形あるモノであり続ける限り、私はこれからも形あるモノとの付き合いを欲するし、その相互作用に尽きせぬ意味を感じることでしょう。
コメント
_ 玲瓏 ― 2024年02月16日 00時16分35秒
_ 玉青 ― 2024年02月16日 19時03分28秒
初コメントありがとうございます。
知らぬこととはいえ、玲瓏様の目から見て、噴飯物の放言も多かったと思いますが(特に鉱物ネタなど)、その辺はどうぞお目こぼしいただければ幸いです。
SNS上では「インターネット老人会」的な話題が定期的に盛り上がりますけれど、昔のeBay経験談も、それに類するものかもしれませんね。おずおずと手探りで入札に挑んでいたあのころが時折懐かしく感じられます。まあ、あの頃に戻りたいとも思わないですが、若さを懐かしむ気持ちも手伝って、あの頃のワクワクはやっぱり懐かしいです。
今後も引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
知らぬこととはいえ、玲瓏様の目から見て、噴飯物の放言も多かったと思いますが(特に鉱物ネタなど)、その辺はどうぞお目こぼしいただければ幸いです。
SNS上では「インターネット老人会」的な話題が定期的に盛り上がりますけれど、昔のeBay経験談も、それに類するものかもしれませんね。おずおずと手探りで入札に挑んでいたあのころが時折懐かしく感じられます。まあ、あの頃に戻りたいとも思わないですが、若さを懐かしむ気持ちも手伝って、あの頃のワクワクはやっぱり懐かしいです。
今後も引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
_ 玲瓏 ― 2024年02月16日 21時44分25秒
じつは虫屋ですので(ebayでの収集対象はこの分野一途です)、「鉱物」(クリスタル)趣味はこれだけです。ですので文献がらみの記事を除くとほとんどは私にとってはどちらかというと衒学的ですが(というか細部を追わずに拝読しています)、短文主体のSNSよりそういう雰囲気が好きなのかもしれません。今後も摘まみ読みさせていただきます。
_ 玉青 ― 2024年02月17日 16時42分14秒
>じつは虫屋
おお、これは…!少年時代に昆虫を追った者として、とても嬉しく思います。
ええ、ぜひ今後もお付き合いのほど願います。
おお、これは…!少年時代に昆虫を追った者として、とても嬉しく思います。
ええ、ぜひ今後もお付き合いのほど願います。
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荒俣氏の当該書籍懐かしい。まだebayを知らなかった当時立ち読みし(後年やはり購入)、当時は国際郵便振替で送金していたなど、ebayの初期の歴史を知る上で意外に重要な証言になりました。
...とりとめもなく失礼しました。