アンティーク望遠鏡(10)…昔のカタログから(その7)2006年05月09日 06時22分37秒


★「大学用」赤道儀式望遠鏡(The "College" Equatorial Telescope)

「大学用」赤道儀式望遠鏡は、まさに全幅の信頼を置ける機材です。価格を抑えるために、不必要な仕上げや加工は極力省きましたが、光学部品および赤動儀式架台の中でも重要な機械部品は、最も高価な機材と同様、入念に仕上げました。

対物レンズは最高級品で、完璧な光軸調整のため調整可能な筒先にマウントされており、金属製の保護キャップが付属します。望遠鏡本体は堅牢な真鍮製の鏡筒。天体観測用アイピースは、合焦ジャケット(focusing jacket、ドローチューブのこと?)に挿入して用いるため筒中にマウントされており、サングラス付きです。ピント合せはラック・アンド・ピニオン方式。付属のファインダー望遠鏡には十字線が張られ、対物レンズには保護キャップが付きます。

赤道儀式架台は鉄製の頑丈な作りですが、簡単に移動ができます。緯度調節弧は70度までの目盛付きで、緯度の異なる場所でもすぐに調節が可能。2つの金属製締め具が鏡筒の周囲を押さえ、さらにそれを赤緯軸上の受け台にギザのある2個のネジ(milled screw)で固定しています。なお、赤緯軸の他端には完璧なバランスを保証するバランスウェイトが付いています。

赤緯環は直径4.5インチ、真鍮に目盛を刻み、副尺によって角度1分まで読み取りが可能。赤緯軸につながるクランプによる粗・微動機能あり。接眼部まで伸びるロッドによって赤緯方向の微動可。

赤経環は直径4.5インチ、真鍮に目盛を刻み、二組の目盛と副尺によって角度15秒まで読み取りが可能です。ラック・アンド・ピニオンで動く真鍮製の目盛環付き。クランプおよび赤経方向の微動機能あり。微動はタンジェント・スクリューで動作し、フック式ジョイントのロッドによって望遠鏡を覗きながらの操作が可能です。

赤道儀をセットアップ後に最終調整するため十分な方位修正が可。上部には水平調整ネジと交差式アルコール水準器が付属。丈夫な樫材製オープン・ラス構造の三脚には、剛性を高めるための伸張用バーが付いています。赤道儀の頂部を構成する鉄柱は十分な高さがあり、天頂観測時でも三脚が邪魔になることはありません。鉄柱の基部には、必要に応じてドライビング・クロックを取り付けるための水平台を備えています。

図の3.5インチタイプには、有効径3.5インチ・焦点距離4フィート3インチの高級対物レンズを使用。サングラス付きの、100倍および200倍の2個の天体観測用アイピースが付属します。<価格 95ポンド>

■メモ■

カタログの中では最もグレードの高い機材。一回り大きい「口径4インチ」だと価格は110ポンドにもなります。「大学用」というのは、一般のアマチュア向けを超えた品質と価格を謳っているのでしょう。

以上、一通り天体望遠鏡のラインナップを見ました。入門用の11ポンドから最高級の110ポンドまで、その価格比は約10倍。で、この価格の意味をぜひ知りたいと思うのですが、ちょっとすぐには判断できません。

ただ、1936年(カタログの出たのは1923年です)のデータによれば、当時の平均的な労働者階級の世帯収入は、年間125ポンド~250ポンドだったので(この層だけで全体の6割を占めた)、最も安価な天体望遠鏡でも、庶民のまるまる一月分の賃金に相当する額だったと大雑把には言えそうです。望遠鏡の量産化が進んだ20世紀でもこうした状態ですから、19世紀中葉までの望遠鏡は、多くの人にとってまさに高嶺の花で、アンティーク市場におけるその稀少さも納得できます。

(上のデータは、V・T・J・アークル著『イギリスの社会と文化200年のあゆみ』英宝社、251-252頁を参照しました。)

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