たいまつ ― 2008年08月28日 18時46分07秒
アヤシイ仕事続行中。今は頭頂部からオレンジ色の炎がボーボー音を上げて吹き出しているんじゃないか…というぐらい気がこもっています。完結までもうちょっとかかります。
国立科学博物館再訪(5) ― 2008年08月30日 11時58分28秒
(↑日本館1階の片隅にて)
しばらくぶりの記事です。
科博で目にとまったものをメモしている最中でしたが、↑のモノについて書こうと思ったところで、ふと手が止まりました。
★佐田介石考案、田中久重作 「視実等象儀」。
陳列ケースの中にあってひときわ異彩を放つ存在。何かおどろおどろしい感じもします。ずいぶん以前から、浅草寺が科博に寄託しているらしいので、ご覧になった方も多いと思いますが、私は今回初めて見ました。こういう珍妙なものが、他の機器と十把一絡げに平然と並んでいるところが、さすがは科博。
佐田介石(1818-1882)は、浄土真宗の僧侶。江戸時代後期には、西洋天文学の隆盛に対抗して、仏教的な宇宙観を世に広めようというカウンターカルチャー(?)が一部に巻き起こりましたが、介石もその末流に位置する人です。
西洋のオーラリーやプラネタリウムの情報が入ってくると、仏教側も「よっしゃ!」とばかりにそれを模倣して、面妖な天体運行装置を作り上げました。この辺は日本人の器用さの面目躍如たるところ。(この装置の作者、田中久重は「からくり儀衛門」と呼ばれた、有名な東芝の始祖ですね。)
仏教的な宇宙観では、世界の中央には須弥山(しゅみせん)がそびえ立ち、四大陸が周囲の大海に浮かび、そのいちばん外側を鉄囲山がぐるりと取り囲むというのが、基本構造になっていますが(細部には他にもいろいろあります)、この視実等象儀もそれをなぞっているようです。器械の下部は、一見すると地球の公転と四季の変化を示す、おなじみの図を思わせますが、よく見ると4つの半球の周囲には波頭が立っていて、それぞれが大海に浮かぶ小世界だと分ります。
さらにこのからくりは、伝統的な仏教教理にとどまらず、介石オリジナルの「実象と視象とは常に相反する」という「視実両象の理」を表現しているのだといいますが、詳しいことは不明です。
理屈はともあれ、この装置でもっとも驚くべきは、これが実は明治の御世になってから作られたものだという点。(彼は『視実等象儀記』初編を明治10年に、同じく『視実等象儀詳説』を明治13年に上梓しています。)
怒涛のごとく西洋の文物が入ってきた時代に、ひとりクワッと目を見開いて、仏教宇宙観を説いてやまなかった傑僧の意気やまことによし。(この記事つづく)
しばらくぶりの記事です。
科博で目にとまったものをメモしている最中でしたが、↑のモノについて書こうと思ったところで、ふと手が止まりました。
★佐田介石考案、田中久重作 「視実等象儀」。
陳列ケースの中にあってひときわ異彩を放つ存在。何かおどろおどろしい感じもします。ずいぶん以前から、浅草寺が科博に寄託しているらしいので、ご覧になった方も多いと思いますが、私は今回初めて見ました。こういう珍妙なものが、他の機器と十把一絡げに平然と並んでいるところが、さすがは科博。
佐田介石(1818-1882)は、浄土真宗の僧侶。江戸時代後期には、西洋天文学の隆盛に対抗して、仏教的な宇宙観を世に広めようというカウンターカルチャー(?)が一部に巻き起こりましたが、介石もその末流に位置する人です。
西洋のオーラリーやプラネタリウムの情報が入ってくると、仏教側も「よっしゃ!」とばかりにそれを模倣して、面妖な天体運行装置を作り上げました。この辺は日本人の器用さの面目躍如たるところ。(この装置の作者、田中久重は「からくり儀衛門」と呼ばれた、有名な東芝の始祖ですね。)
仏教的な宇宙観では、世界の中央には須弥山(しゅみせん)がそびえ立ち、四大陸が周囲の大海に浮かび、そのいちばん外側を鉄囲山がぐるりと取り囲むというのが、基本構造になっていますが(細部には他にもいろいろあります)、この視実等象儀もそれをなぞっているようです。器械の下部は、一見すると地球の公転と四季の変化を示す、おなじみの図を思わせますが、よく見ると4つの半球の周囲には波頭が立っていて、それぞれが大海に浮かぶ小世界だと分ります。
さらにこのからくりは、伝統的な仏教教理にとどまらず、介石オリジナルの「実象と視象とは常に相反する」という「視実両象の理」を表現しているのだといいますが、詳しいことは不明です。
理屈はともあれ、この装置でもっとも驚くべきは、これが実は明治の御世になってから作られたものだという点。(彼は『視実等象儀記』初編を明治10年に、同じく『視実等象儀詳説』を明治13年に上梓しています。)
怒涛のごとく西洋の文物が入ってきた時代に、ひとりクワッと目を見開いて、仏教宇宙観を説いてやまなかった傑僧の意気やまことによし。(この記事つづく)
視実等象儀と「心情の天文学」 ― 2008年08月31日 21時20分01秒
(昨日のつづき)
視実等象儀の下部拡大。すごい迫力ですね。
この装置はクランクを回すことでカタカタ動き出すはずですが、実際どこがどんな風に動くんでしょうか。ぜひ見てみたいです。また、昨日の写真には、巻き上げ用のネジも写っているので、オートデモンストレーション機能付きかもしれません。
★
ところで、この視実等象儀については、たしか稲垣足穂も書いていたぞ…と思い出して、河出文庫版の『宇宙論入門』を見ると、確かに「須弥山さわぎ」という掌編中で触れられていました。
「介石は京都で仏教論部を学び、肥後に帰って庵を結んで、白昼戸を閉ざし燈を点じて観想に耽ること二十余年、須弥世界の模型を作って、各地を講演して歩いた」「僕は〔…〕介石の執着に同情しないわけには行かない」と評価した上で、須弥界模型こそ、「これ疑うべくもなく心情の天文学でないか!」と足穂は大絶賛するのです。
「心情の天文学」。足穂の天文嗜好は、畢竟これに帰するのではないでしょうか。
★
ところで、足穂は江戸の天文学にかなりねちっこい興味を抱いていたようですが、そもそも何がきっかけだったんでしょうか?
彼は、昭和19年に『天文日本 星の学者』という、真面目な日本天文史の本を出すだけの知識を蓄えていましたが、しかし近世天文史などというのは、昔も今もマイナーな学問分野であって、門外漢の一作家が1冊の本まで出すというのは、考えてみると異常な話です。相手がタルホなので、「フーン」で済むわけですが。
で、今回その『星の学者』を読むために、筑摩の全集版の第5巻(宇宙モノを集めた巻)を買ってみたんですが、上の点については不明のままです。全集を隅から隅まで読むと、どこかに書いてあるんでしょうか…。
視実等象儀の下部拡大。すごい迫力ですね。
この装置はクランクを回すことでカタカタ動き出すはずですが、実際どこがどんな風に動くんでしょうか。ぜひ見てみたいです。また、昨日の写真には、巻き上げ用のネジも写っているので、オートデモンストレーション機能付きかもしれません。
★
ところで、この視実等象儀については、たしか稲垣足穂も書いていたぞ…と思い出して、河出文庫版の『宇宙論入門』を見ると、確かに「須弥山さわぎ」という掌編中で触れられていました。
「介石は京都で仏教論部を学び、肥後に帰って庵を結んで、白昼戸を閉ざし燈を点じて観想に耽ること二十余年、須弥世界の模型を作って、各地を講演して歩いた」「僕は〔…〕介石の執着に同情しないわけには行かない」と評価した上で、須弥界模型こそ、「これ疑うべくもなく心情の天文学でないか!」と足穂は大絶賛するのです。
「心情の天文学」。足穂の天文嗜好は、畢竟これに帰するのではないでしょうか。
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ところで、足穂は江戸の天文学にかなりねちっこい興味を抱いていたようですが、そもそも何がきっかけだったんでしょうか?
彼は、昭和19年に『天文日本 星の学者』という、真面目な日本天文史の本を出すだけの知識を蓄えていましたが、しかし近世天文史などというのは、昔も今もマイナーな学問分野であって、門外漢の一作家が1冊の本まで出すというのは、考えてみると異常な話です。相手がタルホなので、「フーン」で済むわけですが。
で、今回その『星の学者』を読むために、筑摩の全集版の第5巻(宇宙モノを集めた巻)を買ってみたんですが、上の点については不明のままです。全集を隅から隅まで読むと、どこかに書いてあるんでしょうか…。
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