高楼天文台2009年09月23日 17時01分08秒

静かに曇った日は、心を騒がせるものがなく落ち着きます。

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画像は100年ちょっと前の古絵葉書。
時代のわりには、簡素で機能的なビルディング風の建物が写っています。
しかし、これが100年前どころか、実は18世紀中葉に建てられたと聞くと、えっと驚きます。

オーストリアのクレムスミュンスター天文台。
修道院付属のこの建物は、現在では天文台の役割を終え、内部は博物館になっています。
…と書くと、これまた事実とたがうのでややこしいのですが、ここは元々天文台であり、同時に博物館でもあった…いや、博物館というよりも、ヴンダーカンマーそのものでした。そんなわけで、ここは天文台としては唯一、小宮正安氏の『愉悦の蒐集 ヴンダーカンマーの謎』で取り上げられています(pp.64-71)。

「数学の塔」とも呼ばれたこの建物。下層から上層に向うにつれて、まず無生物である鉱物と化石、次いで植物と動物、そして人間の科学と芸術に関するコレクションというように、<存在の階梯>をたどる陳列がなされ、更にその上にコスモスの象徴としての天文台があり、頂上には神を称えるチャペルが設けられているという、いわばキリスト教的宇宙観を視覚化した大掛かりな装置だったのです。

そうしたバロック科学の礎の上に、20世紀後半にいたるまで営々とコレクションが付加され続けた結果、クレムスミュンスターはまさに「博物館の博物館 a museum of a museum」と化し、まことに見所の多い名所となっているらしいのですが、残念ながら内部の詳細は不明。(ただし、コレクションの一端は公式サイト↓で見ることができます。)

■(公式サイト)Sternwarte Kremsmünster
  http://www.specula.at/

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クレムスミュンスターを見れば、ブンダーカンマー趣味と天文趣味との間には(現代の好事家の頭の中だけでなく)歴史的に強固な結びつきのあることが知れます。
<驚異>の感覚を媒介に、科学とロマンと法悦が一体化していた時代。
ちょっと羨ましいような気もします。

コメント

_ PL ― 2011年09月10日 20時59分16秒

前にアストロラーベ2でコメントさせて頂きました。
クレムミュンスター修道院は作家シュティフターが学んだところ。
小説にヴンダーカマー学的な記述が多いのもとても納得できました。

_ 玉青 ― 2011年09月11日 10時26分03秒

こんにちは、お久しぶりです。

>クレムミュンスター修道院は作家シュティフターが学んだところ

あ、そうだったんですか!
シュティフターについては、「石さまざま」を読んだぐらいで、個人史的なことをまったく知らずにいましたが、クレムスミュンスターとの結びつきを伺うと、ちょっと作品を見る眼も変わりますね。
多感な時期にああいう環境で学ぶというのは、実に羨ましい気がします。

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