アラマタ氏と驚異の部屋2010年05月26日 19時58分48秒

(↑2005年、群馬県立自然史博物館で開催された企画展、「ニッポン・ヴンダーカマー 荒俣宏の驚異宝物館」 図録表紙)

このところ、ひとしきり荒俣宏氏に関連する話題を書きました。
で、ふと思うのですが、氏はひとえに本を愛するのみで、結局オブジェ(モノ)には関心が向かなかったなあ…という気が個人的にしています。

たしかに、氏には、『アラマタ珍奇館―ヴンダーカマーの快楽』というような本もあって、オートマタ(自動人形)やら、からくり時計やら、ジェニーハニバー(エイを干して作った怪物風オブジェ)やら、ご自分のコレクションを紹介することもしています。今でもきっと折に触れて、いろいろな珍物を買われていることでしょう。しかし、古書の蒐集と較べれば、力の入れ方が最初から全然違うようで、上掲書の文も筆が走っているとは言い難い。

ヴンダーカンマーを標榜しながら、結局、氏は自らヴンダーカンマーを構築することには執着がないように見受けられます。この辺は完全に嗜好・志向の問題だろうとは思いますが、煎じつめれば、氏は根っから<紙と想念の人>なのでしょう。(←憶測で書きました。私の認識不足かもしれません。)

とはいえ、私個人としては、「大博物学時代」を地で行くような、あるいはこの世の驚異と奇想を詰め込んだような、はたまた奇怪・幻妖を極めたような空間を何としても見たいという思いが強くあって、依然荒俣氏に少なからず期待を寄せているのも事実です。

   ★

おりしも、TizitさんのImaginary Beings(http://imaginarybeings.com/wordpress/?p=605)経由で、東大総合研究博物館・小石川分館で、ヴンダーカンマーを冠した新たな展示計画が持ち上がっていることを知りました(11月より開催予定)。

■平成22年度東京大学総合研究博物館 展示等スケジュール
 http://www.um.u-tokyo.ac.jp/information/schedule.pdf


ヴンダーカンマーよ永遠なれ。
驚異の部屋が、とわに驚異で満ち溢れていますように―。

コメント

_ shigeyuki ― 2010年05月26日 22時21分37秒

面白かったです。
僕はヴンダーカンマーというものが何なのか、実はあんまりわかっていません。それに、荒俣さんの本も、本当言うとそれほど持ってないし、たくさん読んでる訳でもないのですが、氏の場合、その存在自体が驚異の部屋という気もしますね。趣味が広くて、何が飛び出すか分からない感じがします。
荒俣さんで最近僕が一番驚いたのは、「磯魚ワンダー図鑑 アラマタ版」という図鑑。写真も文も全部荒俣さんのもの。しかも、この図鑑を作っていた時には、スキューバをやったこともなかったというのだから、ほんとに驚きました。シュノーケリングで撮影かー、と。めちゃくちゃ大変です。変わった人です。なかなか出ませんね、こんな人は。

_ 玉青 ― 2010年05月27日 06時12分38秒

おお、人間ヴンダーカンマー!
なるほど、荒俣氏はすでに自分の中に驚異の部屋を持っているがゆえに、リアルなヴンダーカンマーを必要としないと。確かにそうかもしれませんね。

荒俣氏の場合、博物学を志向した背景として、幻想文学の他に、もう1つ海水魚趣味がありましたね。血の通った生物を愛でる心が隠し味となって、一連の著作に陰影が増したというか、立体感が出たように思います。

_ Tizit ― 2010年05月27日 20時15分27秒

群馬の展示から5年も経ちますか。和洋混交、それは見応えのある景色でした。会場に漂う匂いもまた香しく。小石川始め、ヴンダーカンマーは何処も同様の匂いがします。

また匂いの記憶というものは厄介なもので。見た聞いたは忘れても、何処かで同じ匂いを嗅ぐと突然に記憶が蘇ります。

_ 玉青 ― 2010年05月28日 18時40分13秒

匂い…ありますね。
ヴンダーカンマーの匂いは、好悪がはげしく分かれそうです。生物が完全に無機化する以前の、あれは生と死の混淆した匂いでしょうか。その不安定さが、ヒトの心をかき乱すのかもしれませんね。

  +

こちらのコメントで恐縮ですが、最新の記事を拝見しました。デロール、その他もりだくさんの旅にお出かけになるそうで、何とも羨ましい限りです。甚だ無責任ながら、どうぞ財布のひもはお気になさらず、円高メリットを存分に享受されて下さい(笑)。その戦果を拝見するのを楽しみにしています。

_ Tizit ― 2010年05月30日 21時54分41秒

Deyrolleは財布の紐が緩んでもなかなか手の出ないものが多く(笑)まずはClaude Natureから。

ところで、これがシンクロニシティでしょうか、ムサビで荒俣さんの博物図譜コレクションが公開されるそうです。紙からデジタルへと更に閉じた世界ではありますが、その内容はもちろん、展示空間が如何なるものか興味を惹かれます。

http://www.musabi.ac.jp/library/muse/tenrankai/kikaku/2010/10-03haku1.html

_ 玉青 ― 2010年05月31日 21時32分34秒

パリ博物趣味総まくりの旅!
まことに御同慶の至り。いやが上にも期待が高まります。
さて、武蔵美の情報をありがとうございました。
これは、思うところが多々ありますので、独立した記事で取り上げようと思います。

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