覗き見るひと2015年12月09日 20時03分22秒

年末の密かな愉しみ、桑原弘明さんのスコープ展が、今年も始まります。


■桑原弘明展 Scope
○会期 2015年12月14日(月)~12月26日(土) 〔20日(日)は休廊〕
      11:00~19:00 (作品公開 13:30、15:30、17:30)
○会場 スパンアートギャラリー
      中央区銀座2-2-18 西欧ビル1F
      (最寄駅 JR「有楽町駅」、地下鉄「銀座一丁目駅」)
      MAP http://www.span-art.co.jp/aboutus/index.html

冒頭、「密かな愉しみ」と書きましたが、私は直接会場に伺うわけでもなく、遠くからその世界を想像し、勝手に愉悦を味わっているだけですから、たしかに相当密かな愉しみです。

   ★

昨年は、氏の作品の魅力について考えながら、覗き込むことは、それ自体が「快」であり、愉悦をもたらす」ということを書きました。


「うむ、ここには一片の真理がある」と、自分の駄法螺めいた文章を読み返して考えたのですが、そのことを思い出す絵葉書を最近目にしました。


1930~40年代のアメリカの絵葉書。
「ここからだと本当によく見える!」というのは、若い女性と老博士が、同時に発した心の声でしょうが、まあ、特に説明を加えるまでもない画題です。

これを桑原氏の作品と並べることに、いささかためらいもありますが、ここにもまた「見ることの快」が如実に表れている気がします。

   ★

ピーピング行為に性的ニュアンスが伴うのは、ほぼ男性限定でしょう。そして、この傾向は時代と文化を越えているので、おそらくその背景には、生物学的要因があるのでしょう。ただ、一方には「家政婦は見た」みたいな覗き趣味もあり、「窃視」という行為は男女共通のものだと思います。


   ★

いや、これは性差どころか、種の境界すらも越えているのかもしれません。

昔、心理学の本で「条件付け」の話題を読んでいて、強烈に印象に残ったのは、見る」ことは、それ自体、無条件でプラスの価値を持つという事実です。

動物を使った条件付けの実験では、普通、装置から餌がポロッと出てきて、それが、「ご褒美(=正の強化子)」として働き、学習行動が成立するのですが、餌の代りに「目の前の窓が開いて、一瞬外の景色が見える」だけでも、ご褒美として機能する…という事実が、そこには書かれていました。たとえば、被験体となったサルは、外をチラッと見たいがために―ただそれだけのために―レバーを盛んに押したり、複雑なボタン操作を覚えたりするのです。

「見ることの快」、あるいは「見ることへの強迫性」が、視覚優位の動物にとって、いかに本質的なものであるかが窺える話だと思います。

   ★

どうも「覗き」にこだわりすぎて、桑原氏の作品そのものについて語ることが少なかったようです。われわれは、ただその極微の美の世界に入り込み、陶然とすればもちろん十分です。

(今年のDMテーマ作品は2015年の新作「雪あかり」)

外は美しい雪景色。
今、極微の部屋の主は戸外に極微の顕微鏡を持ち出し、極微の雪の結晶を眺めて、さらなる極微の世界に思いをはせている…なんて想像をするのも、勝手連の楽しみのひとつです。

コメント

_ S.U ― 2015年12月10日 13時07分04秒

「管見」とか「窺管」とか言葉が古くからあって、優れた理学書の題名にも採用されていますが、これは自分の見識が狭いことをいう謙譲語だそうですね。狭い管を覗いて見るというのは元来はつつましく謙虚の行いなのでありましょう。(私にはなかなかそうは思えず、「管見では・・・」とか言われてもあまり謙譲の徳があるようには聞こえないのですが) 少なくとも気持ち良くへりくだれる行為ではないかと思います。

 なお、可視光線の波長は、現在信号として観測出来る電磁波の波長が20桁くらいに及んでいることを考えるとごくごく一部で、いずれにしても人間の目に見える物は波長的には管見であることになります。
 現代の技術で種々のセンサーを使えば桁違いに広い波長帯が観測出来ますが、それにしても単一種のセンサーでは極めて限られたところしか観測出来ないので、視覚、視認、観測というものはすべて本質的に管見なのかもしれません。たぶん、人間はそういうことに古くから本能的に気づいていたのではないでしょうか。人間生涯ピーピングライフです。

_ 玉青 ― 2015年12月11日 06時23分33秒

なるほど、人間はどんなに目を見開いても、所詮「覗き見る」ことしかできないのですね。人はすべからく自らの精神の有限性を胸に刻み、謙虚なピーピングライフを送るを以て可とす…

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