空の旅(10)…四分儀2017年04月29日 13時57分04秒

世間を見回し、何となく末法世界が到来したような気分です。
詮ずる所、人間とは愚かな存在なのかもしれません。
でも、愚かなばかりでなしに、なかなか大したところもあるのが不思議なところで、つまりは、いろいろ矛盾を抱えた存在なのでしょう。

そんな人間の不思議さを思いつつ、「空の旅」を続けます。

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星を見上げる行為が、精密科学へと飛躍する過程には、数々の観測機器の発明がありました。その最初は、太陽による影の長さと位置を測るための、地面に立てた1本の棒で、おそらくそれに次いで古いのが四分儀


四分儀にもいろいろなタイプがありますが、上は時刻を知るための「測時四分儀(Horary Quadrant)」の一種である、「ガンター式四分儀(Gunter’s Quadrant)」のレプリカ。元はイギリスの数学者・天文学者、Edmund Gunter(1581-1626)が考案したものです。

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そもそも四分儀とは何か。
分度器と糸とおもりがあれば、対象の高度を測ることは簡単です(さらにストローがあればなお便利)。


天体の場合は0度から90度まで測れれば十分なので、ハーフサイズの分度器、すなわち全円の四分の一の扇形を使えばいいことになり、これが「四分儀」の名の由来です。


手元の四分儀も、上の図のストローに相当する、2つの覗き穴が扇の一辺の両端に備わっています。さらに、扇の頂点には覗き穴のすぐ下に、もう1個の小穴が穿たれていて、ここに糸を通して、その先におもりをぶら下げたことが分かります。

太陽暦では、特定の日時の太陽の高度(地平線からの角度)は、一意的に決まります。裏を返せば、日にちと太陽の高度が分かれば、その瞬間の時刻が分かる理屈です。

ガンター式四分儀を使えば、さらに時刻以外にも、いろいろなことが分かるのですが、その前に、四分儀を使って時刻を知る方法について、もうちょっと見ておきます。

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下は一般的な測時日時計の図。


最外周から順に、角度目盛り、カレンダー目盛り、時刻目盛りになっています。
時刻目盛りは、さらに複数のパートから成り、外側の弧には正午~午後8時、内側の弧には午前6時~正午の時刻が刻まれ、2つの弧を結ぶようにたくさん並ぶ曲線は、同一時刻における太陽高度の周年変化(夏至~冬至)を示す時刻線です。

また、おもりをぶら下げた糸の途中に、小さなビーズ玉が見えます。
四分儀を使うときは、事前にカレンダー目盛りの位置に糸を持ってきて、糸が時刻線と交わる位置にビーズ玉をセットしておきます。

あとは太陽の高度を調べ、その時のビーズ玉の位置から時刻を読みとればOK。

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ガンター式四分儀にも、当然、上の図と同様の目盛りが刻まれていますが、それ以外にも付加的な目盛りがいろいろあって、中には黄道十二宮の記号も見えます。

下にリンクしたのは、ガンター式四分儀をシミュレートするアプリを作った人の解説ページです。使い方が今ひとつ分からないのですが、結論だけ言うと、これら複雑な目盛り群は、太陽の詳細な位置データ、すなわち高度、方位、赤経、黄経、日の出・日の入の時刻などを知るためのもので、ガンター式四分儀とは、いわば太陽に特化した一種の簡易アストロラーベというわけです。

Gunter's Quadrant Applet

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さらに裏面を見ると…


中央に何やら回転盤が見えます。


目を凝らすと、円盤には星図が彫り込まれていて、回転の中心はこぐまの尻尾の先になっています。


円盤の外周に刻まれたカレンダー目盛りと、その外側に固定された時刻目盛りを使えば、星座の位置関係から、夜間でも時刻が分かる仕組みで、これは日時計に対して「星時計」と呼ばれるものです。

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手元のは単なるレプリカですし、造りもちょっと雑ですが、こういうのは実際にあれこれ操作して初めて分かることも多いので、これはこれで良しとせねばなりません。

ともあれ、この小さな器具一つからも、天文学の歩みを如実に感じ取ることができます。

コメント

_ S.U ― 2017年04月29日 19時09分28秒

>愚かなばかりでなしに、なかなか大したところもある
 国際社会ですから、いろいろな駆け引きや意地の張り合いがあるのもやむを得からざるところですが、遠い古代はいざ知らず、いままで文明が続いてきたのは偉いと言えると思います。でも、本当に昭和天皇のいうような「人類の文明の破却」は来ないと思っていいのでしょうかね。

>四分儀を使って時刻を知る方法
 方位角ではなく、高度を使って時刻を知るという方法には少し驚きました。太陽の位置から時刻といえば、日時計ですから、普通は、方位角で測りますよね。住み慣れていない旅先などでは方位がわからないのかもしれませんが、その場合は緯度もわからないだろうから、結局、緯度がわかる土地でしか使えず、緯度がわかるくらいなら、東西南北の方角もわかりそうなものです。まず夜に北極星の高度を測って緯度を知るのかもしれませんが、北極星をみると方位角も簡単に測れますので、高度に固執する必要はないように思います。
 毎日、昼間にご近所(同じ市町村内)をウロチョロしているような人ならこれで利点があるかもしれません。

_ 玉青 ― 2017年04月30日 11時54分55秒

原始的日時計(垂直に立てた1本の棒)は、影の長さが極端に伸び縮みして、影の先の方位が読み取りにくいので、後の日時計は棒を斜めに傾ける形態に落ち着きましたが、本当は、影の長さそのものを指標にしても時刻は測定できるはずで、それを具現化したのが測時四分儀というわけでしょう。

測時四分儀の泣き所は、正午前後の時刻が極端に読み取りにくいことで、午前と午後の判別すら難しい時間帯が存在しますが、日時計とは違って季節補正が一発でできる利点もあり、そんなことから日時計と共存できたのかなあ…と思います。

_ S.U ― 2017年05月01日 07時16分47秒

>日時計とは違って季節補正が一発
 太陽の日周運動を高度という1次元方向に落とし込むことによって、季節との関係の表現が平面で明解に実現できたわけですね。この点は、幾何学的にすばらしい工夫と言えます。
 
>午前と午後の判別すら難しい
 この点は、ランチタイムをごまかして早弁をしたい人向けかもしれません。

_ 玉青 ― 2017年05月01日 22時33分33秒

冬場は知らず、夏の日盛りの頃なんかは、そうせせこましく時間を区切るには及びませんから、ぜひ測時四分儀を再普及させて、早弁して、昼寝して、まだお釣りが来るぐらいにしてほしいです。

_ S.U ― 2017年05月02日 07時17分39秒

>冬場は知らず、夏の日盛りの頃なんか
 結局は、人間は、太陽の高度変化に対応するような時間精度で生活するので適当なのかもしれませんね。

 日本の江戸時代には「不定時制」というすばらしいアイデア(サマータイムなどメではない)がありましたが、「不定時間精度制」というさらにハイパーなアイデアもよさそうです。

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