星の色2019年07月27日 18時02分29秒

肉眼で見る星は、一部の例外を除いて、だいたい白っぽいです。
人間の目は、暗い対象には色覚がうまく働かないからです。大口径の望遠鏡で光量を集めれば、だんだん色味も感じられてくるのでしょうが、それにしたって鮮やかな天体写真のような具合には、とてもいきません。

それでも、19世紀以降の天文趣味人は、星の色に強く惹かれ、望遠鏡を使って空の宝石箱を眺めることに喜びを見出してきました。

特に色を感じやすいのは、二つの星の対比効果によって、色合いが強調される場合です。旧来の二重星ファンは、たぶん二重星という存在への興味よりも、その色彩に興味を持って観望してきたように思います。

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ときには、その喜びを家族や友人で分かち合うための幻灯会も催されました。
星好きの人にとっては、曇りや雨の晩の恰好の慰みだったでしょう。
そんなふうに想像したのは、実際にそうした幻灯スライドを見つけたからです。


暗黒の空をバックに光る、うしかい座エプシロン星
赤色巨星に寄り添う青緑の星が美しい二重星です。


その実体は、黒いラシャ紙に半透明の色紙を貼り付けたお手製のスライド。
そう、星の幻灯会は、こんなにも簡単な工夫で上演できるのでした。
幻灯スライドといえば、写真だったり、手描きの凝った絵だったりというのを見慣れていたので、最初見たときは、虚を衝かれた思いがしました。


こちらはカシオペヤ座エータ星。本によっては「黄色の主星とオレンジ色の伴星」と書かれますが、ここでは白色とルビーとして表現されています。


星群(アステリズム)のかたわらで、ひときわ鮮やかな深紅の星は、ミラ型変光星のひとつ、うさぎ座R星。その大きな光度変化は、死を迎える間際の星の荒い息遣いに他なりません。


オリオン座シータ星
オリオン座大星雲中のいわゆるトラペジウム。複雑な多重星です。



フレームには「カシオペヤ座シグマ星」とラベルが貼られています。
でも、同星は確かに連星ですが、美しい色合いで有名だとは聞きません。
このオレンジと青は、どうみてもアルビレオはくちょう座ベータ星)だと思うんですが、今となっては詳細不明。

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これらの素朴なスライドは、一括して「Stars & Glusters」(星ときらめき)というシールが貼られた元箱に入っていました。国はイギリス、時代はたぶん19世紀末~20世紀初頭頃。


その晩の賑わい、歓声とため息を想像すると、100年後の私まで何だか愉しくなってきます。


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■天空の色彩学(その1)
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