天体議会の世界…十月の星図(1)2013年08月24日 17時35分21秒

水蓮と銅貨が、行きつけの鉱石倶楽部で謎の少年と謎の出会いをした第1章。
第2章「天体議会」は、それから1か月後、10月の校内からスタートします。

 少年〔ガニュメデス〕の持つ水瓶から零れる水を、南の魚が飲んでいる。ひときわ煌〔かがや〕く一等星は、魚の口〔フォーマルハウト〕。十月の星図を眺めていた銅貨は、それを折りたたみ、まだ星などひとつも見えない真昼の天〔そら〕を見あげた。橡〔つるばみ〕の果〔み〕が、林の中で音をたてて落ちる季節、教室の窓から見える碧空〔へきくう〕は輝くばかりである。(p.40)

残暑の厳しかった頃から、秋本番へ。季節の移ろいが美しく描写されています。

『天体議会』はその題名のわりに、天体の登場回数が少なくて、むしろ鉱石のほうが頻繁に顔を出すぐらいですが、ここで久しぶりに天文の話題に戻れます。

ここで銅貨が眺めていたのは、月ごとの星座を描いた1枚ものの星図で、彼はそれを「折りたた」んで持ち歩いているそうですから、わりと薄手の紙に印刷されたものでしょう。文中には、これ以上の手がかりは何も書かれていませんが、想像するに、これはプラネタリウムに行ったときに配られたか、少年雑誌の付録についていたか、おそらくそんな類の星図ではないでしょうか。

SFチックな話なのに、あまり頻繁に過去に回帰するのもどうかと思いますが、戦前のイメージを重ねると、「子供の科学」誌が月々載せていた「〇月の空」のような感じ。

(「子供の科学」昭和9年9月号より)

(みずがめ座とみなみのうお座付近)

下は昭和2年(1927)に三越で開かれた天文関係の催事の際に配布された解説チラシですが、プラネタリウムでも、こんな感じのものを配っていた記憶があります。

(この図の詳細は、http://mononoke.asablo.jp/blog/2008/04/26/3345315 を参照)

ただし、いずれも星座絵が描かれてないので、銅貨が目にしていた星図としては、少し寂しい感じがあります。まあ、理科少年的にはむしろ星座絵がないほうがスッキリしているとも云えますが、星座絵の描かれた星図で、なおかつ理科少年的風趣にも富む、ちょっと素敵な星図を最近手に入れたので、銅貨をダシにして、強引にそっちに話を持って行きます(あいにく折りたたむことはできませんが)。

(この項つづく)

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