博物趣味の欠片…大地縦覧2013年12月17日 20時51分19秒



フランス地質図』表紙。


これは「書籍」ではなく、リネンクロスで裏打ちされた1枚ものの地図で、広げると115cm×62cm の大判の図になります。フランス全土をカバーする一連の地質図のうちの1枚で、購入したのはフランス最東端、スイスに程近いナンテュア付近図(この図の右端は一部スイスにかかっています)


部分拡大。
かつて、地質図を見て「サイケデリック」と評した人がいます。なるほど、言い得て妙だと思いましたが、この地質図は全体に渋い配色で、サイケとは無縁の落ち着いた表情をしています。

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フランス語版ウィキペディアの「Carte géologique」の項(http://fr.wikipedia.org/wiki/Carte_g%C3%A9ologique)によれば、フランスの地質図作りの歴史は18世紀中葉から始まり、1841年にはフランス全土をカバーする50万分の1地質図6枚が完成し、さらに1868年、ナポレオン3世の命により、地質図作成局(le Service de la carte géologique)が設置されて、8万分の1スケールの地質図作りが始まりました。その1枚目が出版されたのは1875年のことで、今回購入した地質図もこのシリーズの1枚です。したがって、時代的には19世紀末~20世紀初頭頃のものでしょう。(さらにその後、1913年から5万分の1の地質図作りがスタートした由。)


交差ハンマーの刻印が押されているのは、海賊版などを警戒したものでしょうか。

フランスに限らず、地質図の製作が国家の手で積極的に進められたのは、国力増強と地質把握が不即不離の関係にあったからで、いくら博物趣味といっても、化石やシダの標本と同列にこの図を眺めることはできません。できませんが、私はやっぱり硬質のロマンをそこに感じます。山野を跋渉して大地の歴史を探ることは、国家の思惑を超えて雄大な取り組みだと思うからです。