天の歯車…コズミックギア誕生2014年12月28日 11時12分27秒

先日、18世紀のスコットランド人、ジェームズ・ファーガソンが創案した「パラドックス・オーラリー」を話題にしました(http://mononoke.asablo.jp/blog/2014/11/29/)。
地球・月・太陽の位置関係を、通常の三球儀とは違った観点から表現した天文教具です。つまり、時間の経過に伴う月の位置変化を示すのではなく、月軌道の変化に焦点を当てた品。

以前登場したのは、アメリカ生まれの復刻品でしたが、ついに日本でも同様の品が発売されました。

製造元は、日本を代表するグローブ・メーカー、渡辺教具製作所http://blue-terra.jp)です。以下、同社公式サイトより。

コズミックギア 新発売(2014年12月)
 http://blue-terra.jp/news/news2014-13.html
 「転位歯車を使って太陽・地球・月の天体の回転が見事に再現されるモデルが完成しました。産業総合研究所のノウハウを使って、地球は23.4度の傾きを持ったまま、太陽の 周りを回り、月は地球を5度の傾きで回り、月が地球を楕円軌道で回ることを確認できます。18世紀のイギリスを中心に大いに流行った、オーラリーの現代版です。」

(©渡辺教具製作所。以下、同社の許可を得て画像転載。)

真鍮と木味のアンティークムードのアメリカ製も素敵ですが、より理科教材的表情を持った日本製にも、また別種の魅力があります。理科室の教卓で先生がデモンストレーションするには、当然こちらの方がしっくりくるわけです。

(©渡辺教具製作所)

(©渡辺教具製作所)

太陽はLEDの光を地球に投げかけ、透明な月軌道プレートがかっちりその光を受け止めるとき、地球では日食が起きることが、リアルに感じ取れると思います。そして、月がそのとき遠地点寄りにあれば金環食、近地点寄りにあれば皆既日食だ…ということも、感覚的に理解できることでしょう。

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このたび、めでたく発売に至ったコズミックギアですが、その開発はずいぶん前から始まっていて、私が最初に渡辺社長からその計画を伺ったのは、既に2年以上前のことです(これは大いに自慢できることですが、本製品の名称は、私が思い付きで「コスモギアなんてどうですかね?」と言ったのに端を発しています)。
もちろん、私は外野としてその経過を仄聞するのみでしたが、心臓部ともいえる歯車の設計から盤面のデザインに至るまで、一つの製品を完成させるのは本当に大変なことだと、つくづく感じたことでした。

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18世紀に誕生したオーラリーは、前代に成し遂げられたコペルニクス的世界観の具象化であると同時に、ニュートンによる全く新しい宇宙像の誕生―すなわち広大な空間を超えて、非接触的に作用する万有引力の発見―を人々に告げるものでした。18世紀の人々が感嘆し、驚きの目をみはったのも、まさにその点です。

現代の我々は、「万有引力とは質量の存在に伴う時空の歪みに他ならない」という、新しい視点も手にしました。そして、今後も宇宙像はさらに改変されていくでしょう。しかし、オーラリーという一見古風な装置は、宇宙を律する基本法則と、美しいハーモニーをシンボライズしたものとして、これからも永く愛され続けるのではないでしょうか。