恐竜の卵 【附・化石の新古】2015年12月06日 10時27分19秒

最近世間で評判の(天文古玩調べ)恐竜の卵。

(プラケースのサイズは、約8cm×5.5cm)

ラベルの記載を信用すれば、この化石は南米パタゴニア産で、時代は約7000万年前、白亜紀後期の地層から出たものです。

タイタノサウルス(ティタノサウルス)は、ブラキオサウルスやアパトサウルスと同じ竜脚類の仲間で、長い首と尾を持ち、のっしのっしと四足歩行した巨大な草食恐竜。
ただし、ジュラ紀の住人であるブラキオサウルスやアパトサウルスよりも、数千万年ばかり新参者です。


粟おこしのように、粒つぶした表面。
この郵便切手大の破片からも、軽く湾曲しているのが分かりますから、全体の大きさもさして大きくないと想像できます。10数メートルの巨体が生んだ卵にしては、やっぱり小さいです。


裏面もほぼ同じテクスチャー。


殻の厚さは約5ミリあります。鉛直方向に細かい筋が無数に見えますが、この多孔性の殻を通して、外部とガス交換が行われたのでしょう。

   ★

ところで、この卵殻の化石を見ていて、ふと気になりました(最近、ふと気になることが多いです)。

この品は何年か前に買ったのですが、もし私がこれを他の人に譲り渡すとしたら、それって中古品扱いになるのでしょうか? まあ、何となくそうなる気はするのですが、この場合、中古といい、新品といい、その言葉に一体どんな意味があるのか…?

いくぶん敷衍すると、昔のヴンダーカンマーに飾られていた化石は骨董品で、先月掘り出された化石は新品ということになるのかどうか?

  ★

骨董の世界には「伝世古」「土中古」という言葉があります。

同じ古い物でも、代々人の手から手へと伝わってきた品を「伝世古」、長い間土に埋もれていた発掘品を「土中古」といいます。あるいはその中間的な存在、たとえば漢代の器物が明代に発掘されて、その後伝世しているような場合、「土中伝世」という称もあったように記憶しています。

化石の場合も、掘り出されたばかりのウブな化石は「土中古」で、それが市中に出回り、あちらこちらするようになると「土中伝世」の扱いになると、一応は整理できそうです(いずれにしても「新品」は変でしょう)。

しかし、数千年ならまだしも、数千万年とか数億年を経た相手に、そういうみみっちい区別をすることに意味があるのかどうか。そういう区別を立てること自体、偏狭な人間中心主義の表れではなかろうか…という気もします。

   ★

遠い遠い将来、人類文明の痕跡すらも消滅した頃。
我々とは別の知性が、この星の生命の歴史を研究する過程で、新生代のある時期の地層から、古生代や中生代の化石が大量に再出現する謎めいた事実に直面し、大いに首をひねるのではありますまいか。

人は過去の歴史に介入し、すでに大幅に改変してしまっているのかも。
(私もそれになにがしか手を貸しています。)

コメント

_ S.U ― 2015年12月06日 19時09分54秒

>「新品」
 「化石の新品」があったら爆笑ですね。まあタルホ少年ではありませんが、人間がべたべたと触ったことがあるか、山から切り取ってきた状態のままかは区別する価値があるとは思います。

 似たような概念に古銭(貨幣)の「未使用品」があります。「古銭の新品」もおかしいですので(偽造品になります)、「未使用品」と呼ばれています。未使用品と言っても鋳造以来今回ショップに並ぶまでずっと大蔵省が国庫に保管していたというわけではなく、あくまでもキズらしいキズがないという意味で、早々に民間に出ていても「未使用品」です。

 未使用品のままコレクターや業者のあいだを転々とするものもあると思います。むしろ、いったん未使用品として購入したものにわざわざキズをつけてグレードを下げて売る人はいないでしょうから、そうなるのが普通でしょう。

 従って、化石も人間によってキズがつけられていなかったら「未使用品」と表示し流通させるのが適切だと思われます。

_ 蛍以下 ― 2015年12月06日 20時43分39秒

子供の頃、近所で割と簡単に、貝の化石を見つけることができたので、価値基準として、「自分自身で見つけたものか否か」というがありました。
もちろん自分で見つけたものの方が価値が高いわけですが、一つの石に何個も貝がついてるようなものとなれば、話は別で、転校するとき、友人からそれを餞別にもらったときは、嬉しかったものです。
残念ながら、それらの化石は今、見当たりませんが、よくよく考えてみたら、不燃ゴミとして清掃車に回収してもらうわけがないので不思議なことです。

_ 蛍以下 ― 2015年12月06日 20時52分15秒

最後2行、分かりにくい文章を書いてしまいました。
「いま、私の手元に無い」という意味です。貝の化石の絶対数が減ったという意味ではありません。念のため(^^;)

_ 玉青 ― 2015年12月07日 06時57分55秒

○S.Uさま

>化石の新品

いやあ、これが意外にあるんですよ。さっきeBayで化石の売買のページを見たら、状態表記にNew(新品)と書いている人が少なからずいました。まあ「ウブ出し品」という意味で使っているのだと想像はつきますが、さすがに違和感はぬぐえません。

>未使用品

そして、Newの反対が(Oldではなく)Usedで、これまたそう表記している人も多いのですが、化石の場合、「使用する」という動詞が何を意味するのか、こちらもちょっと悩ましいところがないでもありません。(漢方でいうところの「竜骨」の端っこを、ちょっと削ったとか、そんな感じでしょうか…)

○蛍以下さま

自分で見つけた化石、友情のしるしの化石…
お金で計れない価値もあるという当たり前のことを、世間は忘れがちですね。
(それを真顔で主張すると、なんとなく綺麗ごとのように受け止める風潮もあって、本当に嘆かわしく、浅ましいことだと思います。)

_ S.U ― 2015年12月07日 17時47分45秒

玉青様、
>化石の新品
うーん。人造品が混じっていなければいいですけどね。
 コインの場合は、その性格からして、(通貨として)使用する→キズがついても価値は不変、ということで、常に「使用=キズがつく」、といってもいいですが、化石の場合は常に漢方薬になるわけではないので難しいです。

蛍以下様、
 よいお話ですね。私は小学生の頃、天文に入る前の一時期、化石にあこがれたことがあったのですが、化石採集などは思いもよらない遠い夢の世界でした。それで、せめてもと親にせがんで、京都の科学館まで化石を見に連れて行ってもらいました。化石採集をお友達とされたとは羨ましい限りです。
 それで、高校に入る頃になると、京都よりも近い近隣の田舎町で化石がけっこう出ることを知りました。でも、もうそのころは天文にはまっていましたので、化石に手を出す余裕はなかったです。今は私の故郷の市の資料館や科学館に化石くらいいっぱいあるでしょう。

_ 蛍以下 ― 2015年12月08日 02時21分20秒

S.U様

狭い平野を1,000m級の山が取り囲む街の山あいに住んでいたのに、貝の化石がよく見つかったものです。
友人と、「ここも大昔は、海の中やったんやね」などと話しながら化石を探したり、秘密基地を作ったり・・・。
当時、父親の勤務する高校の校舎の屋上に天体ドームがあって、それを見るにつけ天文への憧れが募り、「理科の先生に頼んで望遠鏡を覗かせろ」と父親にせがんだ記憶があります。結局それは叶わず、私が初めて望遠鏡で星を見たのは、20代になってからでした^^

_ 玉青 ― 2015年12月08日 07時03分30秒

お二人のおかげで、よいお話を聞けました。
理科少年の話題は、時代と場所を超えて、常に心を打たれます。

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