神戸、『博物蒐集家の応接間』へ(3)2015年12月16日 06時55分23秒

(昨日のつづき)


黒い木製スタンドに並んだ、青~緑~黄色のグラデーション。


スタンドには「BTB」のラベルが貼られています。

BTB(そのフルネームが「ブロモ・チモール・ブルー」だと、さっき知りました)は、中学や高校の理科の実験で使った記憶のある方も多いと思います。要はその色変化によって対象の酸性/アルカリ性を測る試薬です。

ラベルの記載によれば、ここにはpH5.8から7.4(弱酸性~中性)に対応した、BTB溶液の色見本が並んでいたようです。


しかし、手元の品は同じpH測定用でも、BTBではなくBCG溶液(ブロモ・クレゾール・グリーン)を用いたもので、スタンドだけ手近なBTB用のを転用したのでしょう。
BCGもBTBと同じく、黄~青の色変化を見せますが、その測定範囲は、BTBよりも酸性寄りで、ここにはpH4.0~5.6(弱酸性)に対応した色見本が並んでいます。

   ★

さて、私がこの比色計に「海」を感じたのは、はっきりとした理由があります。
この美しいアンプルセットを見たとき、他ならぬ神戸海洋気象台が編纂した『海洋気象観測法』(大正10年)に載っていた、水色番号」の話をパッと思い出したからです。


それはpHとは関係なしに、硫酸銅の青色液と、中性クロム酸カリの黄色液をさまざまな割合で混和し、その青のグラデーションを海の青さを測る尺度として用いるという、何とも優美なイメージを喚起するものでした。

■海の青さを測るには…水色番号の話
 http://mononoke.asablo.jp/blog/2010/03/10/4936682

   ★

このBCG比色計は、海の青を測るには、いくぶん黄色に偏りすぎですが、私はこの壜を眺めながら、神戸港の寒そうな青白い水をまざまざと思い出したのでした。


(この項さらにつづく)

コメント

_ S.U ― 2015年12月16日 22時01分33秒

>BTB
 BTB、懐かしいですね。こういうのは何種類かあって覚えました。総称するなら「水素イオン濃度測定試薬」とでも言うのかと思って、Wikipediaを見ていますと、「酸塩基指示薬」と呼ばれていることを今日初めて知りました。

 で、見てみると懐かしい名前がいっぱい出ています。
だいたい、酸性が赤、黄系統で、アルカリ性になると緑、青っぽくなると覚えていればよいけど、フェノールフタレインが例外で、こいつはアルカリ性で赤っぽくなるので要注意でした。

_ 玉青 ― 2015年12月17日 06時51分32秒

酸性は赤、アルカリ性は青というのは、リトマス紙に触れて以来、感覚的に沁みついているので分かりやすいですね。なぜ試薬にそういうパターンが多いのか?というのも、突き詰めて考えると面白いのでしょうが、差し当たりウィキペディアで「リトマス」の項を見に行ったら、

「リトマス(英: litmus)は、リトマスゴケ(Roccella 属)などある種の地衣類から得られる紫色の染料。(…)1300年ごろ、スペインの錬金術師アルナルドゥス・デ・ビラ・ノバが発見した。」

とあって、「オッ」と思い、さらにこのアルナルドゥス・デ・ビラ・ノバなる人物の項目を見ると、

「13世紀の錬金術師、占星術師、医師である。アルナルドゥスはラモン・リュイと共に、薬草をスピリッツと共に蒸留して作るリキュールの祖といわれる。」

と記されていて、この辺のことをこね回すと、今回のイベントに相応しい記事が一本書けそうなんですが、あまりにもにわか仕込みの知識なので、コメント欄の隅にひっそりとどめておくことにします。

_ S.U ― 2015年12月18日 19時50分10秒

>13世紀の錬金術師・・・
ではまたの機会にこちらの方面をお調べになってご紹介下さればと存じます。
 私はどちらかというと、植物がこういう色素を持つにいたった理由が気になります。リトマスに限らず、植物色素のうちでは、フラボン類、アントシアン類というのが多数派になっていて、これらにはやはり酸性が赤、アルカリ性が青系統の変色をするものがあります(アサガオとかアジサイとか)。実際には、金属イオンなども絡んでいて単純ではないようです。とにかく、植物がいろいろな花の色をつくりやすいようにイオン濃度とやらで比較的簡単に色を調整できる物質を開発したと考えてよいのではないでしょうか。

 ところで、考えてみると、学校で多種類の酸塩基指示薬の色まで暗記させるのはナンセンスではないでしょうか。専門家でも、自分がよく使う1~2種類の色を覚えていれば十分だし、使う際には、付属の色見本図を手ずから参照するのが正しい客観的な測定態度だと思います。あやふやな勘や記憶に頼ってpHを測るなどけしからんです。

_ 玉青 ― 2015年12月19日 13時02分56秒

>植物色素

ご示唆をありがとうございます。
花の色に興味をそそられ、さっそく自助努力で関連ページを見に行きました。
http://www.naro.affrc.go.jp/flower/kiso/color_shikiso/index.html
たとえば上のページなんか、私には半分も理解できませんでしたが、分子レベルで見た花の色の本態というのは、なかなかどうも容易ならぬ感じで、「花の色は移りにけりな」と乙に澄ましこんでいる場合じゃないぞ…と思いました。

>けしからん

あはは、これは手厳しい。まあ、世間には調色職人とか、異様に鋭敏な色彩感知能力を備えた人もいるようですが、教育の場には一寸なじまないですね。

_ S.U ― 2015年12月19日 17時50分59秒

>「花の色は移りにけりな」
 花の色とか人間の容貌の変容は、人の目では主観と感慨を持って見ることしかできませんが、化学的には少数の物質による緻密なメカニズムで淡々と起こっているみたいですね。「近頃の恐竜は・・・」というのがありましたが、まあ世の中進歩するとどこへいってもそんなものでしょう。そういう新しい知識自体にも、それなりの感慨のあるものです。

>手厳しい~教育の場
 最近は、環境基準とかデータの公表とかうるさいですからね。pHもしっかり測って報告しないといけないのではないかと思って厳しいことを申し上げました。これも時代と社会の要請というやつです。ある意味、人間の匙加減の効かぬ味気ない世の中になりましたね。

_ 玉青 ― 2015年12月20日 08時53分37秒

「うーむ、どうも近頃味わいというのがなくなりましたな。」
…とか言うと、味わいの正体を分子レベルで縷々説かれかねない世の中ですね。

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