タルホ的なるもの…光楼と夜の飛行者 ― 2016年05月25日 19時49分58秒
下は大正頃のマッチラベル。
先日、摩天楼の月が登場しましたが、新大陸に築かれた巨大な建築物が、同時代の日本の想像力をいかに刺激したか、このマッチラベルはその好例ではないでしょうか。
先日、摩天楼の月が登場しましたが、新大陸に築かれた巨大な建築物が、同時代の日本の想像力をいかに刺激したか、このマッチラベルはその好例ではないでしょうか。
頂部からだんだらの光を放つビルヂング。
そして、誘蛾灯に集まる虫のように、その周囲を舞い飛ぶ飛行機、飛行船。
そして、誘蛾灯に集まる虫のように、その周囲を舞い飛ぶ飛行機、飛行船。
「Air Light」とは、「拡散光、大気散乱光」の意。
それにしてもスゴイ絵柄です。
それにしてもスゴイ絵柄です。
しかも、高楼はさらにズンズンと成長を続け、今や空の頂点を極めんとする勢い。
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このマッチラベル、夜空をゆく飛行機や飛行船だけでも、十分タルホ的です。
さらに、こうした「夜空に光を放つ高楼」のイメージが、足穂の脳髄とペンを刺激し、そこから「ポン彗星の都」や「パルの都」のような幻想都市が産み落とされたことは、以前も記事にしました。
(画像再掲。1915年、サンフランシスコで開かれた「パナマ太平洋万国大博覧会」の光景)
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高楼建築は、単なる土地利用の経済効率から生まれたものではない…というのは、たぶんその通りで、バベルの塔のように、人間が自らの力を誇るシンボルとしても、また早くに失われた東大寺七重塔のように、人智を超えた存在を賛嘆し、それに捧げるものとしても作られ続けてきました。
そうした感覚は今も濃厚にあって、一国の市民が自らの繁栄を誇りたいと思えば、超高層ビルをにょきにょき建てて、それをことさらニュース映像の背景に使ってみたりするものです。それは単なる物理的構造物を超えた、人間の想念の世界に生きる存在のようでもあります。
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かつて讃岐の沖合に、高さ30丈、すなわち100メートル近くもある巨大な玉(ぎょく)製の塔がそびえ立ち、その中には光を放つ明珠が祀られていました。唐土より贈られたその珠を、竜宮の民から人間の手に取り戻すため、そしてそれによって我が子に幸をもたらすために、自らの命を投げ捨て、壮烈な最期を遂げた一人の海女。
…というのが、能・「海士(あま)」のストーリーです。
少年時代の足穂は、父の命によって仕舞(能における舞だけを独立させたもの)を習っていましたが、彼が2番目にならった曲が「海士」です。足穂少年は、その頃海女さんの救命綱が切れるという現実の事件に偶然接し、この曲はことさら彼の脳裏に残ったといいます。
そして謡曲の舞台「讃州沖」は、同時に足穂の故郷・明石の沖でもあって、後年の追想記『明石』では、允恭紀に引かれた「赤石海底有真珠」のエピソードと、少年時代の「海士」の思い出を結びつけて書いています。
(観世流仕舞教本より、「海士・玉之段」の一節)
足穂がどこまで自覚的だったかは分かりませんが、彼がパナマ太平洋万国大博覧会のシンボルタワー、「宝玉塔(Tower of Jewels)」の絵葉書を見せられたとき、この「海士」の潜在記憶が刺激され、その作品にも影響を与えたのではないか…というのが、私の想像です。
もしこの想像が当っているなら、足穂にとって「光を放つ高楼」は、その非情な相貌とは裏腹に、何か母性を感じさせるものだったかもしれません。
コメント
_ S.U ― 2016年05月26日 18時35分25秒
_ 玉青 ― 2016年05月26日 20時05分26秒
仕舞の型付けも、現行のものは変体仮名を使ったりはしていないのですが、写真のものは足穂氏をしのんで、あえて大正時代のものを写したので、かかる仕儀と相成りました。なお、能の解説書は今ではいいものがたくさんあると思いますが、その辺は不案内ですので、はかばかしいお答えが出来ず申し訳ありません。
「流れ星整備工場」のご解説、大いに楽しみにしております。
「流れ星整備工場」のご解説、大いに楽しみにしております。
_ S.U ― 2016年05月27日 08時25分22秒
現行の教本ではないのですか。これは一本取られました。そりゃそうですよね。
能については、とりあえず、日本古典文学全集の類いを見てみることにします。
「流れ星整備工場」の現代物理学については、次の鴨沢さんの登場の時に備えて綿密に分析しておきます。
能については、とりあえず、日本古典文学全集の類いを見てみることにします。
「流れ星整備工場」の現代物理学については、次の鴨沢さんの登場の時に備えて綿密に分析しておきます。
_ 玉青 ― 2016年05月27日 20時49分07秒
>綿密に分析
S.Uさんが「綿密」と言われるからには、これは相当綿密とみてよいですね。
分かりました。ここは心して次のクシー君ネタを仕込むことにいたしましょう。(^J^)
S.Uさんが「綿密」と言われるからには、これは相当綿密とみてよいですね。
分かりました。ここは心して次のクシー君ネタを仕込むことにいたしましょう。(^J^)
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またもお尋ねですが、文学書のようなので能の主要な演目の謡と役者の台詞が全編書かれているような本はあるのでしょうか。お写真の仕舞教本のようなのは、お値段が張りそうな割に江戸仮名やお家流風が読みにくそうなのでちょっとご遠慮申し上げたいです。お勧めがあればお知らせ下さい。