宇宙競争(後編)2016年09月02日 06時38分31秒


(画像再掲)

正確にいうと、左側のは1952年版の「スペースレース」で、右側のは1957年版です。
57年版と52年版を比べると、惑星カードはまったく同じですが、トラブルカードの方を見ると…

(1957年版「スペースレース」のカード。昨日写っていたのは1952年版です)

あ!左下に何か見慣れぬカードが。


57年版では、52年版の「宇宙海賊」と「宇宙怪獣」が、「味方の衛星」と「スプートニク」に置き換わっているのでした。さらに、単純にプレイヤーが順番交代するのではなく、「味方の衛星」を引くと、さらに2枚カードを引けるラッキー要素が、「スプートニク」を引くと、「2回休み」という罰ゲーム要素が付け加わって、ゲームに一層変化を与えています。

   ★

それにしても、宇宙怪獣(あるいは宇宙海賊)がスプートニクに変化し、更なるマガマガシサを振り撒いている…というのが、まさに時代です。

1957年は、いわゆる「スプートニク・ショック」の年で、人工衛星の打ち上げでソ連に先んじられたアメリカが、猛然と追い上げを決意した年でもあります。まだ見ぬ「味方の衛星」に夢を託し、スプートニクに敵愾心を燃やしたアメリカの少年少女も多かったのでしょう。

(ただし、前々回の「土星の頭」の話に出てきたように、「スペースエイジは新たな地球同朋の時代だ。国同士のちっぽけな争いはもうやめよう」という論もあったので、当時の子どもたちの心が、ソ連憎し一色に染まっていたわけでは、当然ありません。)

   ★

アメリカはその後、有人月着陸を成功させて、大いに溜飲を下げました。
そして、「スペースレース」ゲームも、1969年にアポロ・バージョンのパッケージに衣替えし、それを盛大に祝ったのでした(何だか執念深い話ですね)。

(69年版は持っていないので、これはeBayの商品ページから寸借。パッケージは変りましたが、中身は57年版と今度こそ本当に同じです。)


これぞ「スペースレース」、米ソの宇宙開発競争を体現したゲームだなあ…と、しみじみ思います。

コメント

_ S.U ― 2016年09月02日 18時49分25秒

 「スプートニク」当時のアメリカ人の心情を物語る貴重なグッズですね。

>まだ見ぬ「味方の衛星」
 ここで、1957年版のカードの「味方の衛星」と「スプートニク」の形状は、(色は別にして)ともにアメリカの人工衛星「ヴァンガード1号」を模したものではないかと思います。Wikipedia日本語版で、「ヴァンガード計画」をご覧いただくと、ヴァンガード1号のイラストが載っています。もちろん、1957年の時点では、ヴァンガード衛星はまだ日の目をみていませんでした。

 Wikipediaにあるように、「ヴァンガード計画」はアメリカによって世界最初の人工衛星をめざしてスタートした計画ですが、たぶん1957年夏頃までに準備中の人工衛星の仕様が一部公表され(あるいは公然とリークされ)すでに世界の人々の知るところになっていたと思います。残念ながら同年10月4日にスプートニクに出し抜かれ、それをあせって追うヴァンガードは12月6日の打ち上げに失敗し、さらに後発の自国の別の計画にまで抜かれてしまって、ヴァンガード1号は世界4番目(アメリカでは2番目)の人工衛星に甘んじてしまったのでした。(代わりに、現在軌道上にある最古の人工衛星という栄誉を得ています)

 12月6日のヴァンガードの失敗は、アメリカで生中継されて「スプートニクショック」の火に油を注ぐヒステリー状態(上のWikipedia)にまでなったということなので、この衛星の比較的「お気楽」なカードは、10月4日以降12月6日以前にデザインされたものではないかと思います。

_ 玉青 ― 2016年09月03日 21時50分22秒

あ、なるほど。漠然と衛星の形をイメージしたデザインなのかと思いましたが、モデルはヴァンガード1号だったのですね。

それにしてもリンク先の記事を読むと、アメリカはソ連相手に相撲をとるだけでなく、ヴァンガードは海軍、エクスプローラーは陸軍と色分けされて、国内でもいろいろな面子や思惑が絡んでああだこうだと聞くと、こういうのは時代と国を超えていますね。ほほえましい…とまでは思いませんが、なんとも人間臭い話だと思います。

_ S.U ― 2016年09月04日 06時49分13秒

>モデルはヴァンガード1号
 中央にある小さな長方形の小窓みたいなのが太陽電池パネルで、これは当時先行した他の人工衛星にはなかった特徴なので、これで間違いなくヴァンガード1号がモデルと識別されると思います。また、左上部に小さな白くて丸い斑紋のようなものがありますが(パッケージの図ではもっとハッキリしています)、こちらは、内部にある環境測定の機器用の丸窓と考えられ、これはアンテナ4本とともにヴァンガード2号で用いられた仕様なので、ヴァンガード1号2号の技術がごっちゃになったモデルの模型か図面が事前に公表あるいはリークされたのではないかと思います。カードゲームからでもいろんなことがわかるものです。

>国内でもいろいろな面子や思惑が絡んで
 これは、構造的な人間の性なんでしょうね。指導者は、計画の進捗や技術者の面子やいろいろ心配になって気を使うのですが、結局どちら立たずになって、いずれにしても批判される場合が多いようです。

 当時の「鉄のカーテン」の向こうでも事情は同じで、ソ連共産党中央の指導の下に軍学官労一丸となって宇宙計画に邁進したかというと、まったくそんなことはなく、月到達競争では、異なる二つのグループに同時にゴーをかけてしまい、両方とも間違いなく優秀だったのですが、確執から足の引っ張り合いになって、結局、アメリカに負けてしまいました。
 それでも、両者の面子を守ろうとする努力の結果、今日にいたるまでロシアの宇宙ロケットと有人宇宙船技術は、世界の中でその技術レベルの面子を保ち続けているという、皮肉というか、今となれば「ほほえましい」結果になっています。

 この辺にご興味を持たれましたら、拙著「ソ連の宇宙開発-真実の歴史」(前後編)をネット検索でご覧下されば幸いです。(前編を上のURLにリンクしました)

_ 玉青 ― 2016年09月04日 13時53分01秒

ご紹介ありがとうございます。
いつも「銀河鉄道」のご紹介をいただきながら、この記事は未読でした。
恥ずかしながらこの方面はまったく無知だったので、目から鱗のことばかりです。ただ、読み進むにつれて、宇宙開発という最先端の事柄も、面子という分かりやすい行動原理に基いている部分がいかに大きいかを知って、ここでもまた思うこと多々です。そしてまた、米ソともに、その面子のために有為の人材がいかに犠牲となったことか。まさにオモテあればウラ、光あれば影、ですね。

_ S.U ― 2016年09月04日 22時40分56秒

 拙著をご覧下さり、本当にありがとうございます。

>面子という分かりやすい行動原理
 国家の最高機密の裏側はどうなっているのかという長年の疑問でしたが、わかってみれば案外「わかりやすい」人たちでした(笑)。

 日本史や世界史の数々の謎も、登場人物の「面子のウラ歴史」を想像することによって、わかりやすく解けるかもしれません。また挑戦してみてください。

_ 玉青 ― 2016年09月06日 06時28分13秒

たかが面子、されど面子…ですね。(笑)
ときに業務連絡ですが、冊子のご恵送ありがとうございました。
昨日無事落手しました。これから拝読します。

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