望月の欠けたる晩2016年11月23日 11時52分03秒

昨日は津波警報でヒヤッとしましたが、大きな被害もなく、まずは良かったです。
とまれ用心を。

   ★

こんな版画を見つけました。

(最初から額に入ってました)

額縁全体は21.5×32cm、中央の窓枠は10×20cmほどですから、ごく小さな作品です。


読みにくいサインですが、ドイツの売り手はこれを「S. Feigl」と読んでいました。
でも、そういう名のアーティストは、探しても見つかりませんでした。
あるいは職業画家ではなく、日曜画家の趣味の作品なのかもしれません。(その脇にある「8 / ’99」というのも、1999年8月作という意味なのか、99枚刷った内の8枚目というエディションナンバーなのか、判然としません。)


そんな無名氏の作ですが、それでも買う気になったのは、もちろん安かったというのもありますが、この絵の不可解さを面白く思う気持ちがあったからです。
そもそも、これは日食なのか、月食なのか?

これは金環食の場面ですから、日食とすれば、こんなふうに辺りが真っ暗になるはずがありません。これは明らかに深夜の空の色でしょう。かといって、月食とすれば地球の影の方が、月本体よりもずっと大きいので、「月食の金環食」というのはありません。

…というわけで、真面目に考えるといろいろ理屈に合わないのですが、これは無名氏の想像力が生んだ「幻のエクリプス」であり、町中の人々がいっせいに眠りに落ちた晩にだけ生じる、不思議な「金環月食」の光景だ…と見るのが、いちばんスマートではないかと思います。


【11月24日付記】

いえ、全然スマートじゃありません。
この絵の真相は、コメント欄でS.Uさんが見事に謎解きされていますので、ぜひお読みください。

コメント

_ S.U ― 2016年11月24日 12時45分11秒

一昨日に引き続いて今朝も緊急地震速報が出て、おまけにけっこうな雪が降って朝からたいへん驚かされました。

 それらのショックというわけでもないですが、ちょっと前にヨーロッパのど真ん中で皆既日食があったなと、ふらっと思い出しました。改めて調べてみると1999年8月11日でした。

https://ja.wikipedia.org/wiki/1999%E5%B9%B48%E6%9C%8811%E6%97%A5%E3%81%AE%E6%97%A5%E9%A3%9F

 中央ヨーロッパ~東ヨーロッパでは太陽が南中する頃に皆既になったはずです。この絵は1999年8月11日の昼間の皆既日食の様子としてよいように思います。また、このとき皆既食帯にあったドイツの街から選ぶと、絵の塔の形と並びはミュンヘン市街マリエン広場付近を北から見た景色ではないかと思います。

(ご参考・ミュンヘンでの日食観察のレポート↓)
http://www.tz.de/muenchen/muenchen-live/302303-muenchen-live-ticker-nachrichten-0318-272649-4829445.html
http://www.deutsches-museum.de/ausstellungen/naturwissenschaft/astronomie/infos-und-links/sonnenfinsternis1999/

_ 玉青 ― 2016年11月24日 20時27分28秒

いやあ、はじめて飛行機を実見し、「鮮やか!鮮やか!!」と喝采した足穂のお祖父さんのような気分です。(^J^) これは日食の実景で、中央の図は金環食ではなく、コロナをまとった黒い太陽だったのですね!例の数字が、日食の日付を意味する…というのは、まったく想定していませんでした。そこから時間と場所をぴたりと割り出されたS.Uさんの名推理に完全に脱帽です(一瞬、今度こそ意趣返しか…?と邪推した、私の狭い心をお許しください・笑)

ともあれ、不思議な絵の謎が解け、これが作者のイマジネーションの産物などでなく、確かな歴史の一コマとわかって、そこに新たな味わいが生まれました。ありがとうございました。(ちなみに、これを売ってくれた人のロケーションを確かめたら、まさにミュンヘン近郊でした。)

_ S.U ― 2016年11月25日 08時40分59秒

 おかげ様で今回はぽんぽんと勘が当たって、あっというまにミュンヘンまでたどり着く体験ができました。「幻のエクリプス」もいい雰囲気ですが、現代の都会のエクリプスも、それで実体験した人たちにとってはかけがえのない思い出になっていると思います。

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