フィリップス問題(5)2016年12月10日 09時50分40秒

これまでのところを、推測も交えてまとめておきます。

フィリップス社の星座早見盤の歴史は、ドイツのメーカーの製品を元に、その英語版をドイツの版元に依頼する形で1886年に始まり、当初はドイツ版と全く同じデザイン(フリルタイプ)を踏襲していました。

その後、第1次世界大戦の勃発によって、ドイツからの製品供給が困難になると、同社はイギリス国内での製造に切り替えて、1910年代後半からは新しい「スクエアタイプ」が同社の「顔」になりました。

このスクエアタイプは、第2次大戦後も健在で、1950年代になってもその製造が続けられていたことは、前々回の記事で書いたとおりです。

残された課題は、このスクエアタイプが、現行のデザインにつながる「ラウンドタイプ」にいつの時点で切り替わったか?ですが、これもネットの恩恵ですぐに調べがつきます。

ラウンドタイプの初見は1959年です。
下はネットで販売されていた品の画像を寸借したもの。


(上の品の裏面)

これによって、ほぼ1950年代いっぱいはスクエアタイプの製造が続き、60年代を目前にして、ラウンドタイプに切り替わったことが窺えます。その後、ラウンドタイプは、素材・フォント・カラーデザイン等、細部に変更がいろいろありましたが、現在売っているのは下のような品です。


フィリップス社の星座早見盤がこの世に登場して、今年でちょうど130年。
イギリスと日本に限っても、この間本当にいろいろなことがありましたし、星見のスタイルもずいぶん変わりましたが、夜空の星と、それを見上げるスターゲイザーの「心意気」はいささかも変らないぞ…と、新旧の星座早見盤を見て思います。

(この項ひとまず完結)

コメント

_ S.U ― 2016年12月10日 13時19分30秒

フィリップス社に限らず、一般のスクエアタイプについてについての疑問なのですが、スクエアタイプは、普通中心には何の軸受け構造もなく、円盤を四角に周囲から閉じ込めることによって成立しているのでしょうか。最近そのタイプを使ったことがないのでわからなくなりました。よろしくお願いします。

_ メルキュール骨董店 ― 2016年12月10日 23時05分18秒

玉青様
拝読し、素晴らしいの一言です。
実は、私なりに製作年代の分水嶺になりうるかと注目していた事が他にあり、生意気な学生よろしく、いくつか質問をぶつけようと思っていたのですが、もはや消え去りました。
この早見のデザインの源流が英国フィリップス社ではなくドイツにあったというお話しは、まさに画期的であり、自身の怠慢をも諌めてくださいました。
本当にありがとうございました。

_ パリの暇人 ― 2016年12月11日 02時49分01秒

フリルタイプには仏語版もあり 二種類所蔵しています。 ひとつは ベルギーの INSTITUT NATIONAL DE GEOGRAPHIE, BRUXELLES発行で  もう一つは スイスのジュネーブの R. BURKHARDT書店発行です。 装飾・作りなど英・独版と全く同じですが 印刷国の表示はありません。 他に アメリカ・シカゴのHammond社も同種の早見盤を出していたような記憶があります。
フィリップス社の早見盤がいつ頃作られたものかは 住所表示を見れば大雑把に知ることができます。住所の最後が EC4であれば 1917年以降のもので ECならそれ以前です。30ー32 Fleet Streetとあれば1950年代だったと思います。
友人の フランス在住のイギリス人 Anthony Turnerとクリスマス前に会う予定ですので フィリップス社の早見盤について色々と聞いてみたいと思います。何か面白い事でも分かればご報告いたします。

_ パリの暇人 ― 2016年12月11日 06時16分30秒

すみません 間違えました。 シカゴのHammond社ではなく ボストンのHammett社(スクエアタイプ)でした。 また アメリカのニューヨークのWhittaker社もフリルタイプの同じ早見盤を出しています(made in Germany)。

_ 玉青 ― 2016年12月12日 07時12分27秒

○S.Uさま

フィリップス社の「スクエアタイプ」に関しては、まさにそうですね。
前身の「フリルタイプ」については、外から見えないものの、実は紙の下に「隠し金具」が仕込んであって、円盤とフレームが固定されています。それによって盤の回転をスムーズにしているのですが、長年使っていると、そこから紙が破れてくるので、これは良し悪しです。

○メルキュール骨董店さま

いやあ、何となく自信満々に書いてしまいましたが、でも上に記したことは、ごく限られた情報に基づいて憶測交じりに書いているので、あくまでも1つの「作業仮説」と受け止めていただければ幸いです。1つ上のコメントで、パリの暇人さんからも追加情報をいろいろお知らせいただいておりますが、まだまだフィリップス社の星座早見盤周辺には、解明すべきことや、確定すべきことが多々あると思います。引き続きご教示いただきますよう、どうぞよろしくお願いいたします。

○パリの暇人さま

いつもながら詳細な情報を、どうもありがとうございます!
フリルタイプはどうもいろいろなところに顔を出していて(手元にはイタリア語版のものがあります)、今後その辺の背景事情を明らかにしていく必要がありそうですね。

洋古書に関しては、真の初版本を見分けるための詳細情報(何ページの何行目に誤植がある、とか)が多々あって、それだけをまとめた本も作られているとか聞きますが、天文アンティークの世界は、なかなかそこまで情報が共有されていませんから、こうして先達に直接教えを受ける機会は、何にもまして貴重です。(Turner氏のお話も、ぜひお聞かせいただければと存じます。私にとっては、何よりのクリスマスプレゼントです。)

_ S.U ― 2016年12月12日 18時54分41秒

>「スクエアタイプ」
 ご教示ありがとうございます。
 軸構造なしのスクエアタイプは確かに伝統的にあるのですね。ネット画像によると、ハトメで止めてあるスクエアタイプもけっこうあるようです。

 軸構造なしのスクエアタイプの星座早見の新品は、ミニチュアやアンティークの模作品を除けばもう売られておらず、もはや骨董に頼るしかなさそうです。

_ 玉青 ― 2016年12月13日 21時29分40秒

ハトメは偉大な発明ですね。
ではハトメの歴史は…と調べかけましたが、さすがに横道なのでやめました。(笑)

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