一枚の星座早見盤が開く遠い世界2022年12月26日 06時33分29秒

皆さんのところにサンタクロースは来ましたか?
私のところにはちゃんと来ました。
今年、サンタさんから届いたのは一枚の星座早見盤です。


これは世界にまたとない品です。なぜならこの早見盤が表現しているのは、紀元137年のアレクサンドリアの星空なのですから。


「紀元137年のアレクサンドリア」とは、何を意味するのか?
それはアレクサンドリアで活躍した、かのプトレマイオス(紀元100頃-170頃)の大著『アルマゲスト』に含まれる星表のデータが記録された年であり、この早見盤はそのデータを元に作られた、いわば「アルマゲスト早見盤」なのです。この円盤をくるくる回せば、「プトレマイオスの見た星空」が、文字通り“たなごころに照らすように”分かるわけです。

(今からおよそ1900年前、12月25日午後8時のアレクサンドリアの空)

この早見盤は、元サンシャインプラネタリウム館長を務められた藤井常義氏から頂戴したもので、藤井氏こそ私にとってのサンタクロースです。この早見盤のオリジナルは、藤井氏がまだ五島プラネタリウムに勤務されていた1976年に制作されたものですが、最近、私がいたくそれに感動したため、藤井氏自ら再制作の労をお取りいただいたという、本当に嬉しいプレゼントでした。

(早見盤の裏面)
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アレクサンドリアの位置は北緯31度、日本だと九州最南端の佐田岬付近に当たるので、今でもそこから見える星空は、東京あたりとはちょっと違います。でも、1900年の歳月はそれ以上の変化を星空にもたらしました。


こぐま座のしっぽの位置に注目。今では北極星として知られる尻尾の先端の星が、天の北極からずいぶん離れてしまっています。言うまでもなく地球の歳差運動によるもので、当然プトレマイオスの頃は、この星はまだ「北極星」と呼ばれていませんでした。


あるいは、先日のオジギソウの記事(LINK)のコメント欄で、みなみじゅうじ座β星「ミモザ」の由来が話題になったときに、古代ローマ時代にはすでに南十字が知られていたという話が出ました。早見盤を見ると、そこには南十字こそ描かれていませんが、位置関係からいうと、ケンタウルス座の足元に、今では見えない南十字の一部が確かに見えていたはずです。

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プトレマイオスの威光のせいで、当時のアレクサンドリアは栄光の絶頂期のようなイメージを個人的に持っていましたが、話を聞いてみると、アレクサンドリアが文化・経済の中心として繁栄したのは紀元前2世紀頃のことで、プトレマイオスの時代には有名なアレクサンドリアの大図書館も、ずいぶん寂しいことになっていたらしいです。まあ今の日本のようなものかもしれませんね。

それでも古代ローマの残照はいまだ眩しく、この早見盤の向こうには遠い世界の華やぎと、星座神話が肌感覚で身近だった時代の息吹が感じられます。