黒い帽子をかぶった人の思い出2023年06月28日 07時51分02秒

足穂イベントの余話。

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あの日の午後、まだ会場を訪ねるには時間が早かったので、私は近くでゆっくりコーヒーを飲んでいました。そこはアンティークショップに併設されたカフェで、とても落ち着ける場所でしたが、店内を見回しているうちに、何となく見たことのある人が立っているのに気づきました。

あれ?と思いましたが、それはやっぱり賢治さんでした。
私は賢治さんに声をかけ、自分のテーブルに招じると、今日のイベントのことやら何やらいろいろ話しかけました。賢治さんは静かにそれを聞いていましたが、私が「どう、賢治さんも一緒に行かない?」と尋ねると、「ええ、喜んで」と即答したので、私は賢治さんと連れ立って店を出ました。

   ★

…というのは、もちろん私の脳内のお話です。
件のアンティークショップは、主にレストアした古い家具を商うお店のようでしたが、それ以外にも古物が店内のあちこちに置かれていて、そこで古いボーラーハットを見つけたというのが、現実世界で起きた出来事です。


でもそれを見た瞬間、私が賢治さんのことを思い出し、賢治さんと連れ立って出かけるつもりで、それを買い求めたことは事実です。何せ場所は京都、時は六月、そして足穂に会いに行く直前ですから、気分の高揚ついでに、そんな酔狂な真似をするのもむべなるかな…といったところです。


その帽子は、今こうして部屋の隅に置かれています。
ボーラーハットは別に賢治さんの専売特許ではありませんが、私にとってこれは賢治さん以外のものではありえません。

私が実際にこれをかぶって町を歩いたり、下の畑を見に行ったりするかは不明ですが(照れ臭いのでたぶんしないでしょう)、これを見る度に、一緒に足穂に会いに行った懐かしい(そう、それはすでに懐かしさのうちにあります)思い出がよみがえることでしょう。

コメント

_ S.U ― 2023年06月28日 12時35分56秒

今から、およそ100年前、賢治さんは、はたして足穂に会ったことがあったのでしょうか。
足穂のオッサンは、生きている時の賢治さんに会ったことはない、と言ったとか。
でも、1920年代の賢治さんは、当時、きらめいていた足穂にどこかで会っていそうに、私は思います。
 昨年は、トシさんが亡くなって100年、今年は、賢治さんが出版を目指し上京して100年になるそうです。

 会っていないのかもしれませんが、100年も経ったのだから、今、会わせてあげるのがいいでしょうね。
このたびは、いいことをされました。ねえ。

_ 玉青 ― 2023年06月29日 06時08分57秒

そうおっしゃっていただけると、しみじみ良いことをした気がします。
(なんだか足穂と抱影を引き合せた草下英明さんになったような気分です。)
今回、お互いどんな印象を持ったか、その辺もおいおい脳内で聞いてみることにしましょう。

_ S.U ― 2023年06月29日 08時24分28秒

>脳内
 井上ひさしさんによると、賢治さんは、事務所などに10人ほど人が集まっていると、「ざしき童子」の形で、現代の町にでも現れるのだそうです。今に、玉青さんの事務所にも現れるかもしれません。

_ 玉青 ― 2023年07月01日 12時28分14秒

そういえばさっき妙な気配が…

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