秋の夜の幻燈会(1)2009年11月14日 16時16分33秒

朝方は雨。昼からは快晴。
強い風に乗って、ちぎれ雲がぐんぐん青い空を進んでいくのが見えました。
冬近し。

  ★

以前も登場した、日本の理科少年の誕生を告げる名著、石井研堂の「理科十二ヶ月」。(http://mononoke.asablo.jp/blog/2009/02/11/4113169

11月のお題は「幻燈会」です。
この11月の巻も、他の巻と同じく多くの独立した章から成るのですが、幻燈会についての話は、第2章から第7章にまたがり、かなり長いです。

まずは第2章、「長夜の良友 幻燈器」。

晩秋の一日、全編の主人公である明治の理科少年・春川さんは、ふと思い立ちます。「追々に夜が永くなッて来たから、夜の遊びをしなければならぬ、夜の遊びの内で、幻燈会が一番おもしろい、一つ幻燈器械を作ッて、お友達と楽しまう」。

「夜の遊び」というのがいいですね。
今聞くと一寸変な意味に聞こえますが、昔は季節の遊びがはっきりしていて、さらに昼の遊び・夜の遊びの区別もあったわけです。

さて、そこで春川さんは菓子折りの箱板、古帳面の表紙、虫眼鏡を使って、苦心して手製の幻燈器をこしらえます。(←最初はブリキで作ろうとしたのですが、うまく出来なかったために方針を変更して、板と紙を使うことにしたのです。これはきっと作者・研堂自身の体験が元になっているのでしょう。)

次に幻燈の種絵、つまりスライドの作成にかかります。ガラス切りなど身近にありませんから、火打石の角を使えという指示が文中にあります。切ったガラスに好きな絵を描き、色を塗るのですが、鉱物性の絵の具だと光を通さないから、植物性のものを使えという、この辺の指示も細かいですね。あとはボール紙にガラスを挟んで糊づけすれば、完成です。

「幾日も幾日も丹精して、やうやく出来ましたから、春川さんは、お友達に見せる前に、一人でためしをして見ました。」

光源には普通の石油ランプを用い、障子に映してみると、「自分ながら驚く程、絵が判然と映りますので、手を拍ッて喜び、いよいよお友達を集めて幻燈会を開く日を待ッてをりました。」

以下、この幻燈器を使った、少年たちの愉快な理科談義が続くのですが、それはまた次回。

ところで、この幻燈器のスペックですが、「障子から凡そ二尺離れて、円を一尺五寸ほどに映したのが、すばらしく、はっきりと映」ったとありますから、今の感覚で言うと相当ささやかな映像です。それでも明治の少年たちにとっては、心躍る体験であったのでしょう。

コメント

_ S.U ― 2009年11月15日 18時06分30秒

またぞろ、昔話でございますが、...
私の幼稚園の頃は、「幻燈会」が「全盛」で、私も大好きでした。紙芝居よりも相当ハイテクだと思っていました。たしか当時の媒体はロールフィルムで、幼稚園に何十本かストックされていたように思います。(私も当時すでに関心があって家捜しをしていたのでしょう) でも当時はカラーリバーサルフィルムはべらぼうに高価だったので、そのようなものが使われていたとは思えません。透明なベースに印刷したものではないかと思います。どんなものだったでしょうか。ちょっと気になりました。

_ 玉青 ― 2009年11月16日 21時26分03秒

秋の夜長には、幻燈会と昔話が似合いますね(笑)。

うーん、私も何か見たような気がするんですが、ちょっと記憶がおぼろです。

今、1955年に刊行された教育用品の総合目録を見たら、視聴覚教材の項に、驚くほど大量の「幻灯画」が掲載されていました。ページ数にして65ページ、ざっと5000タイトル。一方、紙芝居は僅かに3ページ、映画でも12ページの扱いですから、当時いかに幻燈が多用されたか分かります。

幼稚園・保育園向けのタイトルを見ると、「イソップ物語」、「太郎吉と魔法の犬」、「すずの兵隊」、「金魚のピクニック」、「よい子のオッコちゃん」、「ライオンとうさぎ」等、童話系の作品が多く、他に「かぜをひかないように」とか「あそびときまり」といった、教育的な内容のものが少々まじっています。

たぶん、幻燈は安価で且つ面白い(子供たちを飽きさせない)メディアとして愛用されたんでしょうね。作品1本がだいたい500円前後。当時の物価を考えると高いような気もしますが、紙芝居でも1冊300円ぐらいしたことを考えれば、相対的にコストパフォーマンスが良かったのだと思います。(映画フィルムともなれば、5分の白黒作品でも6000円、ちょっと長くなれば、すぐ2万や3万になってしまうので、金満学校以外とても買えなかったでしょう。)

で、そのフィルムなんですが、カタログには「色別」という項目があって、作品ごとに「単」「彩」「フジ天」「コニ天」「部分天」の表示があります。単はモノクロ、彩は彩色、天は天然色でしょうが、この「フジ天」「コニ天」は、名称からして何となくフィルムっぽいような…。ただ、不思議なことに、色別が違っても値段はほとんど変わりません。手間を考えると、20コマや30コマぐらいの小ロット生産だと、あまり差が出なかったのでしょうか?

_ S.U ― 2009年11月16日 23時52分42秒

おぉ、調べていただくといろいろとわかるものですね。教材目録の威力はすごいぃ...
私が小学校に入った後は、ほとんど映画になりましたから、教育用「幻燈時代」も昭和30年代とともに終わったと言っていいのではないでしょうか。

 作品1本が500円ですか。換算の仕方にもよりますが、現在のお金では、1~2万円というところでしょう。高いように思いますが、著作料付きで高度な印刷技術を使ったあまり数の出ない画集か写真集だと思えば、こんなものかもしれません。
 「フジ天」、「コニ天」は、どう考えてもカラーフィルムのようですね。私の子供の頃でも、白黒写真とカラー写真ではフィルム代と現像代合わせて1桁くらい金額が違ったと思います。当時のカラーフィルムの価格がわからないので何ともいえませんが、カラーはフィルム代だけで数百円はすると思うので、ひょっとすると、コマ数が違うのでしょうか...? 白黒は長尺のロールで、天然色はスライド4,5枚とか。

「彩」は、手彩色ではなく、何らかの印刷だと推測しますが、どうでしょうか?

_ 玉青 ― 2009年11月17日 22時04分30秒

もういっぺんカタログを見直したら、天然色のものには、650円とか、800円とか、値の張るものが結構混じっていて、やはり一寸お高かったみたいです。(コマ数は、現物を見ないとちょっと判断がつきません。)

「彩」はおそらく多色印刷でしょうね。

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