明治日本のアマチュア天文家…日本天文学会草創のころ(1)2010年12月26日 15時44分03秒

そもそもこのブログを始めたきっかけでもある、「天文趣味史の考察」。
その日本編を書いてみたいのですが、当然そんなに簡単に書けるはずはありません。でも、書かないといつまでたっても書けないので、とりあえずラフデッサンだけしておきます。

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以前、アラン・チャップマン氏の『ビクトリア時代のアマチュア天文家』を熱心に読んでいたころから、同時代の日本ではどうだったのかな?という問題意識が、常に頭の隅にありました。

大正時代も後半になって、山本一清や、野尻抱影のような天文オルガナイザーが登場する以前、まだホビーとしての天文学が認知されていなかった時代に、イギリスのアマチュア天文家に相当するような存在が、日本にもいたのかどうか?

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たしかに、アマチュアの立場で天文に入れ込んだ人は存在しました。
たびたび引用する『日本アマチュア天文史(改訂版)』(恒星社厚生閣)を見ると、山本一清(1889-1959)や神田茂(1894-1974)は、学生の頃からいっぱしの観測家でしたし、社会人にも、たとえば横浜の汽船会社員、井上四郎(1871-1934)のように、アマチュアとして彗星や新星の独立発見を成し遂げた傑物がいました(これは当時の日本の天文学の水準を考えると、今よりも桁外れにすごいことでしょう)。

ただ、これらはアマチュアというよりはプロに近い人たちで、実際、山本や神田はプロとして後に天文界の重鎮となりましたし、井上にしても、日本天文学会設立時からの参画者で、さらに会社勤めから東京天文台のスタッフに転じました(←興味深い人物ですね)。

(井上四郎 1871-1934
日本アマチュア天文史編纂会(編)『改訂版・日本アマチュア天文史』より)

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では、さらに草の根というか、素朴な天文ファンについてはどうだったのでしょうか?

日本天文学会が1908年(明治41)に創刊した機関誌「天文月報」のバックナンバーを、今では全てオンラインで読むことができます↓便利な世の中ですね。
http://www.asj.or.jp/geppou/contents/index.html
その初期の号を読んでみたら、その辺が少し見えてきました。

当時の日本天文学会は、アマチュアも広く受け入れており、会費を収めれば誰でも普通会員になることができました。(今だと準会員に相当する地位ですね。今の正会員に相当するのは「特別会員」で、資格を得るには他の特別会員2名の推薦が必要でした)。

そもそも、アマチュアを受け入れないと学会の体を成さないというのが当時の実情で、『日本の天文学の百年』(日本天文学会百年史編纂委員会編、恒星社厚生閣、2008)には、以下のように書かれています。

「明治41年当時の天文学研究者の数は、すでに述べたように帝国大学星学科と東京天文台の職員を中心とする10数名に過ぎなかった。そのため、差し当たり、天文学の教育、普及活動の方に重点を置いて学会員の数を増やすしかなかった。」(p.15)

「この当時、天文学の各分野を専門家がわかりやすく解説するような月刊誌は皆無だったから、理科の先生や天文ファンからは『天文月報』は驚きの眼をもって迎えられ大いに歓迎されたと考えてよいだろう。このことは、『天文月報』創刊後の会員数からも窺える。同年11月の第1回定会で寺尾が報告した総会員数は650名に達していた。天文学会発足時の方針は誤っていなかったのである。」(p.16)

で、そうした結節点を得て集合した天文ファンの中には、素朴派も少なからずいたようです。それを端的に示すのが、「天文月報」第4巻第6号(明治44年9月)の巻頭にある、関口鯉吉による「素人観測家に」という文章です。これは「学問的に価値のある観測のススメ」といった趣旨の一文ですが、そこにはこうあります。
 
(出典:http://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/1911/pdf/191109.pdf よりスナップショット)

「漫然蒼穹を瞰(にら)んで其の美観に打たれ」る人や、望遠鏡で「土星や木星の異形を眺めて「やあ!ステキだ」など、感服して満足さるゝ人達(笑)が、天文学会周辺に少なからずいたわけですね。そういう「素人」に、関口は苦々しいものを感じたらしく、「僕は会員の一人として諸君の中に斯ういふ方の追々減じて行きつゝあるを誇りとする」と書いていますが、ちょっと冷たい感じです。私には、むしろそういう愛すべき「プチ天文ファン」の存在が嬉しく感じられます。

(この項つづく)

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