マッチ箱の銀河鉄道と、ふたつの魂2011年05月15日 20時31分37秒

「稲垣さん!」
「あ、賢治さん。こりゃどうも。」


「稲垣さん、さっきから何を思案してるんです。」
「ちょっと恥ずかしいとこを見られましたな。なに、煙草に火ィ点けたついでに、このマッチの空き箱を見てましたらな、何やらまた紙で拵えてみたくなりまして。」
「ほほう。」
「そう、ジッと見んといてくださいよ。賢治さんに見られるとキマリが悪い。まあ、隠してもしゃあないから、どうぞ見て下さい。賢治さんの書かれた銀河鉄道ね、あれがマッチ箱の中から飛び出したら、何やこうイケるんやないかと思うたわけで。」


「ああ、なるほど。マッチをシュッと…ええ、ええ、揺れる炎の色あいや、燃えさしから昇る煙には、機関車のセンチメントがありますね。」
「銀河はね、空の上にもあるし、こうしてマッチ箱の中にもある。」
「そうですね、銀河は私の心の中にもあるし、稲垣さんの懐にひょいと放り込まれてもいい。」


「どうです、余分に拵えましたから、今度あちらの世界に帰るとき、妹さんへのお土産に。」
「や、どうも有難う。これは稲垣さんのいい思い出ができた。」
「地上とは思い出ならずや…(笑)。今度お会いするのは、銀河のほとりですな。それまでどうぞお達者で。」
「ええ、貴方も。」


   ★

ドイツ東部にある木製玩具の里・ザイフェン。
この山あいの町では、水車を用いた刳り物細工のおもちゃが、17世紀から作られ続けているとか。写真は、そこでお土産用に売られている、マッチ箱のミニチュア細工。(現代の品です)

コメント

_ S.U ― 2011年05月16日 20時09分00秒

賢治さんとタルホはんの会話、よろしなぁ。

ドイツの木片細工が出た時には、タルホ先生はまたしてもバワリア製色鉛筆の思い出話を持ち出したでしょうね。

_ 玉青 ― 2011年05月16日 20時38分36秒

銀河鉄道社主のS.Uさんのお褒めにあずかり光栄です。

それにしても、二人の会話。聞いてみたいですねえ。
賢治さんは存外(?)肚が据わっているので、問題ないでしょうが、
足穂氏は滅法シャイなので、うまく話が噛み合うかどうか…
やっぱり何らかの液体の力を借りなければ難しいでしょうか。

_ S.U ― 2011年05月16日 21時50分01秒

>銀河鉄道
 ほな、すんませんが、せっかくご紹介にあずかったところで、この場に最新号のURLをちょとリンクさせてもらいまひょ。

 賢治さんが亡くなった年が本家が発車した年とすると今年で78年、我が社のは今年で創刊39年。半分のとこまで来ました。追いつけませんけどね。

_ 玉青 ― 2011年05月17日 06時25分56秒

お知らせいただき、ありがとうございます。
只今、一通り拝読いたしました。
編集後記も含め、充実の一言に尽きますね。

ベストセラーの1つの要件に、「読者に自分の頭が良くなったかのように錯覚させる本」というのがあるそうですが、S.Uさんの文章も、その資格十分ですね。私も一瞬脳にドーピングをされたような気分になりました。旧暦の話、これまでハッキリしなかったことが、スッと分かりました(正確には、分かった気がしました)。
文中、「細かい問題だからどうでもよい、という態度」は、チト耳が痛かったですが(笑)。

_ S.U ― 2011年05月17日 07時32分27秒

 さっそくご覧くださりありがとうございます。
 これはドエライ褒め方をいただいていますね、...恐れ入ります。

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