素焼きの星座、あるいは冬の記憶2011年05月14日 15時56分39秒

驚いてばかりではいけないので、通常の記事も書きます。


素朴な素焼きのバッジ。3センチ弱のかわいらしい品です。
2羽の鳥の足元には、SCHWAN と ADLER の文字が浮き出ています。
もちろん、はくちょう座とわし座をかたどった品です。
星の部分は黄色く塗られており、他にも白鳥は白、鷲は緑の絵の具が残っているので、元は全体が彩色されていたようです。

他にもいろいろな星座があって、私の手元には今10個ばかり集まっています。

これらのバッジは、1930~40年代のドイツで、ある目的のために作られました。
バッジのテーマは星座ばかりではありません。動物あり、建物あり、乗り物あり、歴史上の人物あり。素材も、陶器以外に磁器、ガラス、金属など、実に多種多様なバッジが作られていました。

あるいは、フランスのフェーヴを連想される方もいると思いますが、実際、これらのバッジの一部はフランスに送られ、フェーヴに流用されたとも言われます。

しかし、このバッジのそもそもの目的は、フェーヴとはまったく異なります。
かつて「冬季救貧運動」というのがありました。原語は Winterhilfswerk(ヴィンターヒルフスヴェルク)、略してWHW(ヴェーハーヴェー)。
ナチス時代のドイツで盛んに行われた募金運動のひとつで、これらのバッジは、その募金者に与えられた景品なのです。

(ペルセウスとペガスス)

WHWは、趣旨としては日本の歳末助け合い運動のようなものですが、内実はナチの国策そのものであり、ヒトラーに忠誠を誓った青少年組織・ヒトラーユーゲントやドイツ女子同盟が、その運動の先頭に立って働いていました。

(おおぐま)

バッジを身につけることは、即ち「良き国民」であることを示すサインであり、しかもバッジのデザインはしょっちゅう変わったので、支部同士が募金額を競い合うムードも手伝って、人々は頻繁に募金せざるをえなかったといいます。何とも息苦しい話です。

   ★

この小さなバッジを前に、人はいろいろな思いをこらすことができます。
天上の星は澄んだ光を放ち、星座の神話は甘美で、バッジの姿形は愛らしい。
しかし、その歴史的文脈はいかにも苦く、否応なく省察を迫ります。

コメント

_ mimi ― 2011年05月14日 21時54分34秒

まさか、玉青さんが、こんなに可愛いものを持っているとは、想像しませんでした!
もちろん、実情を知ったら、とても「可愛い」とは思えませんが・・・。
(下にうっすらと透けているあのマークとの対比がいいですね)

そういえば、ヨーロッパの方たちは、必ず「何座?」と聞いてきます。
日本人は血液型占いが好きですが、こちらでは、「なにそれ?」という感じです。

それにしても、地球儀、天球儀をたくさんお持ちで、とてもうらやましいです。私も毎週、探しに出かけているのですが、なかなか本当に気に入ったものに出会いません。ネットで探せばいいのですが、ブロカントでなんとか安く手に入れてやろうという下心がいけないんですよね(笑)

最近、1850年ごろの植物画を手に入れたので、毎日眺めては楽しんでいます。それにしても、手書きされた望遠鏡の設計図や、天球儀の設計図は、CAD製図と違い、何度見ても美しく感動しますね。

こちらのブログは、いつ来ても私の知らない知識や商品情報が手に入り、コメント欄を読んでいても、みなさん博識な方ばかりで、素人の私は、少しでも知識を吸収させていただこうと、いつも楽しく読ませていただいております。

_ 玉青 ― 2011年05月15日 08時08分30秒

>まさか、玉青さんが、こんなに可愛いものを

おや?いったいどういう人間だと思われていたんでしょうね(笑)。
可愛いものも意外に(!)あるんですよ。

>ネットで探せばいいのですが、

古物蒐集は、物そのものと同じぐらい、あるいはそれ以上に、探索の過程に面白さがありますよね。私も自分の足で探せる環境ならば、きっとそうするでしょう。mimiさんは、それができる素晴らしい環境にいらっしゃるのですから(アンティークの植物画、いいですね)、なんとも羨ましい限りです。ぜひその妙味を存分に味わって下さいますように!(^J^)

_ S.U ― 2011年05月15日 11時12分59秒

わし座のデザインはドイツ風ですね。ドイツ国防軍のヘルメットの紋章が意識されていたのなら、これは、星座意匠としても歴史的価値があるんじゃないでしょうか。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%89%E3%82%A4%E3%83%84%E5%9B%BD%E9%98%B2%E8%BB%8D

_ 玉青 ― 2011年05月15日 11時49分46秒

あ、確かに似ていますね。
あの鷲は一種のステロタイプな表現だと思いますが、ウィキをたどっていくと、ドイツと鷲の関わりは、神聖ローマ帝国を経て、元祖ローマ帝国まで遡るみたいで、ナチスよりもさらに根は深そうですよ。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%B7%B2_(%E7%B4%8B%E7%AB%A0)
西洋における鷲は、中国における龍のシンボリズムと近いのかもしれません。

_ S.U ― 2011年05月15日 14時11分29秒

>元祖ローマ帝国まで遡る
 おぉ、紋章も星座も世界人類数千年の文化遺産ですね!!

 ナチスドイツの悪名高いプロパガンダ、「千年王国」を名乗るだけあって、さすがにこの要所をはずしていませんねぇ。

_ 玉青 ― 2011年05月15日 20時30分28秒

終戦間際ヒトラーが叫んだ。
「時の経つのはなんと早いことか!もう千年が過ぎてしまった!」
(出典:ドイツジョーク http://www.geocities.jp/asamayamanobore/joke/doitu/doitu1-50.html

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック