天文古玩・再考(8)…オーラリーと天球儀(2)2011年05月02日 20時28分05秒

オーラリー基礎講座をひとくさり。
そもそもオーラリーとは何ぞや?ということなんですが、一昨日の記事にあるように、オーラリーというのは貴族の名前、すなわち第4代オーラリー伯チャールズ・ボイル(1676-1728)に由来し、彼が、ジョン・ローリー作の太陽系を模したカラクリ装置を所有していたことにちなむものと言われます。

ジョン・ローリー(1665頃-1728)は、ロンドンの科学機器製造メーカー。サンダーソンさんは、オーラリー誕生の年を、1712年としていましたが、こういうことの常で、その辺の経緯はちょっと曖昧です。

はっきりしたところでは、1713年にリチャード・スティール卿という人が、「ザ・イングリッシュマン(新聞名)」紙上で、ローリーの作った機械と、ローリーがこれをオーラリーと呼んだ事実を記事にしており、これが装置としての「オーラリー」という語の初出のようです。そして、装置自体は前年にできていたらしいので、そこから1712年という年次が導かれるのですが、いずれにしても、来年か再来年が「オーラリー誕生300周年」ということになります。イギリスあたりでは、何か記念の催しがあるかもしれません。

上のことは、この方面の基礎文献である、Henry C.King の 『Geared to the Stars』(University of Tronto Press, 1978)に書かれていることの受け売りですが、キングはさらにオーラリーの定義について、次のように書いています(p.154、適当訳+適宜改行)。

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「1713年以降、『オーラリー』という単語は、太陽系を表すさまざまな機械模型に対して用いられるようになった。

ただし厳密に言えば、既に見たように、軌道を回る地球(earth-ball)が、常に平行を保つ軸を中心に日周運動を行い、かつその周囲を月球が回る装置だけを、その名称で呼ぶべきであろう。もし月球が欠けていたら、それは『テルリアンtellurian』〔地動儀、の意〕であるし、もし月球部が主役(dominant)なら、その装置は『ルナリウムlunarium』〔月動儀、の意〕である。

結果的に、『オーラリー』という語は、地球と月の様子を示す装置を指すことが多かったとはいえ、必ずしも地球を回転させたり、月を動かしたりする機械装置を備えているとは限らなかった。さらに、地球以外の惑星の公転を示す装置についても『オーラリー』の語が用いられるようになった(その中には惑星の自転を表現したものも、そうでないものもあった)。

もし、その装置が、惑星の公転だけを表現して、(ホイヘンスの作った装置のように)地球の自転を無視していたら、それは『プラネタリウム』〔惑星儀、の意〕と呼ばれるのが常だった。本書の以降のページでは、可能な限りこうした厳密な呼称を使うことにしよう。」

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要するに、一昨日のトリッペンシー社の製品のような、いわゆる「三球儀」こそが、厳密な意味でのオーラリーだというのですが、この辺はもうハッキリ言ってゴチャゴチャです。

現在、アンティーク市場で「テルリアン」(あるいはテルリウム)の名で売られているのは、ほとんどが月球の付属する三球儀式のものなので、キングの用語法からいえば、ちょっとおかしいことになりますが、もう今さらどうしようもありません。

そして、オーラリーはと言えば、現在ではデアゴスティーニのオーラリーのように(→ http://mononoke.asablo.jp/blog/2009/01/16/4061703 )、たくさんの惑星がにぎにぎしく回るモデルをもっぱら指すことが多い印象を受けます。

結局、キングが言うように「月があるかないか」「地球が自転するかどうか」といった、原理・原則的な部分よりも、地球が円盤上を回るのがオーラリー長いアームの先に地球がくっついていてアームごと回るのがテルリアンだという風に、パッと見の外形的違いによって区別しているのが、実態かもしれません。(ただし、後者のタイプでも、内惑星や外惑星がおまけに付いていると、「プラネタリウム」と呼ばれたりします。)

昔のクリスティーズのカタログ(※)から、その実例を挙げるので、名称を当ててみてください。なお、呼び方はカタログに記載されている通りのものです。
(※)Globes and Planetaria (South Kensington, 1999年11月24日)

左)プラネタリウム
右)テルリウム(キングにならえばオーラリーでしょうが、今ではこのタイプを普通テルリアン、あるいはテルリウムと呼んでいます。)

オーラリー(地球と月と太陽しかない、元祖オーラリー。ジョン・ローリーが最初に作ったのもこれに似ています。)

プラネタリウム

オーラリー(太陽がランプで表現されています。これも三球儀タイプのオーラリー)

テルリウム

どうでしょう、当たりましたか?
でも、これはあくまでもクリスティーズの用語法で、他の業者はまた違った呼び方をするかもしれず、結局なんだかよく分かりません。それに、英語圏の外に出れば、きっと違った分類・用語法があるはずなので、もうあまり細かいことを気にせず、全部ひっくるめて、「惑星装置planetary machines」と呼んでいいのかもしれません。

(この項つづく)

【おまけ】  ちなみに、上に掲げたクリスティーズの売り立て品の評価額は、いちばん安いのが300~500ポンド(現在のレートで4~7万円)、高い方が2000~3000ポンド(同27~40万円)になっています。今だともうちょっと値が張るかもしれませんが、それにしても大型テレビを買うことを考えれば…とも思います。まあ、この辺はかなり価値観が入るでしょうね。