博物学者の部屋… Liberal Arts Lab:DARWIN ROOM(4)2011年11月19日 13時39分23秒

朝から冷たい雨が窓を打ち付けています。 冬近し。

   ★

さて、ダーウィンルームの店内を改めて画像つきでご紹介します。

この「天文古玩」は、著作権の扱いが全般に緩く、自他に甘いのですが、以下の画像はダーウィンルームさんのご好意により提供していただいたもので、著作権は同店にあります。その点につき十分ご留意願います。(なお、お送りいただいた画像はもう少し大きかったのですが、画面に収まるよう今回75%に縮小しました。)


六差路の角に開口部を持つ店舗。
エクステリアのグリーンも美しく、ドアから覗く店内の光景が好奇心を誘います。
スタッフのOさんからいただいたメールには、「ドアの右側は時計草です、5月から10月末頃まで花が咲き続けます。ボタニカルアートには欠かせない博物趣味の植物ですね。左側はブドウです」とありました。

ドアの左右につづく窓際は、カフェのカウンターになっていて、ここでコーヒーを飲みながら、街ゆく人を眺めたり、買ったばかりの古書にゆっくり目を通したりできます。


店内風景。中央奥にカフェカウンターが見えています。
昆虫標本はここに写っている以外の場所にも、たくさん置かれています。


「教養の再生」をうたう書棚。化石人骨のレプリカが目を引きます。
棚に並ぶのは当然、自然史やサイエンス系の本ですが、その範囲は驚くほど広く、品揃えは多彩です。ここでも本の合間に、化石や昆虫標本が所狭しと並んでいます。


博物濃度がひときわ高い一角。
奥にチラリと見えるシマウマ、そしてシマウマと並ぶ「2枚看板」のペリカンの剝製。
棚の最上段には、福音館の古典童話シリーズと南方熊楠全集が見えますね。この不思議な取り合わせも自然に思えるのが、この店の特徴です。
この角度からだと見えませんが、この奥がレジになっています。

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いかがでしょうか?
当然のことですが、実際の店舗内は、ここに写っていない標本や剥製、その他の品も沢山あって、写真から想像されるよりも、さらに豊穣な空間となっています。
いくらコーヒーをごちそうになったとはいえ、提灯記事を書くつもりは毛頭ないのですが、やはりここは実際に足を運ばれることをお勧めします。

コメント

_ mimi ― 2011年11月20日 01時00分49秒

想像と違い、ナチュラルな明るい雰囲気のお店なんですね。
是非行ってみようと思います。
下の記事のテンシノツバサだけでなく、『シイタケさん』にもかなり惹かれました。

ところで、非常に心苦しい質問をさせてください。
(お粗末な質問ですみません)
ニュートリノの再実験が、話題になっておりましたが、速度計算にGPSを使うとなぜ問題なのでしょうか?素人なので、よくわからないのです。
いえ、そもそもなぜGPS?と思ってしまうのです。

今、日本に戻っていますが、お酒のCMで、「どうかタイムマシンができませんように・・・」とつぶやくCMを見て、うなずいてしまう自分がいます(苦笑)

_ 玉青 ― 2011年11月20日 08時24分37秒

おかえりなさい。

件のCM、ピンと来なかったのですが、今Youtubeで探して拝見しました。
http://www.youtube.com/watch?v=oYFt3V3FQ94
私は二階堂焼酎のファンクラブ会員なのですが、こんなことでは失格ですね。(笑)
二階堂のCMはどれもそうですが、この作品も心に沁みました。

ダーウィンルーム、ぜひ行かれてください。
店舗面積は15坪ですから、出来ることと出来ないことが自ずとあるのですが、何といっても本邦初の業態のお店であり、こうしたお店が日本に根付き、成長していくことを願って、勝手連的に熱烈応援中です。

   +

さて、ニュートリノの実験に関するご質問。
普通だとササッとネットで調べたことを、知ったかぶりして書くのが、私のいつものパターンですが、この件については、常連コメンテーターのS.Uさんがご専門で、ネット情報よりもはるかに正確な解説をいただけると思いますので、それに期待しつつ、とりあえずブログの管理人として、素朴な考えを下に記します。


速度を測るには、単純に(移動)距離を(所要)時間で割ればいいわけです。
これはニュートリノに限らず、野球のボールでも、自転車でも同じことですから、今回の実験は、実験としては何も難しいことはないですね。ただ今回は、非常に微妙な値を、きわめて厳密に測る必要があり、そのための工夫の1つがGPSの利用だったのでしょう。

別にGPSを使わなくても、ニュートリノを発射した場所と、受け取った場所で、それぞれ時計をきっちり合わせておけばいいような気もしますが、離れた場所にある時計をきっちり合わせるのは、実際にはなかなか難しい作業なので、それならばいっそ1台の時計で測ってしまえ…というわけでGPSを使ったんじゃないでしょうか。

GPSで時刻を測る場合、電波で地上と情報をやりとりするタイムラグや、衛星と地上では重力の差によって時間の進み方が違う(相対論的効果)とか、補正すべき項目がいろいろあって、もちろん考えられる限りの補正はしたのでしょうが、結果的にまだ補正しきれてない項目があったんじゃないか?というのが、後から指摘された事項ではないでしょうか。(たとえば、2つの地点は地形によって重力にわずかな差があるので、それによって生じる時間の進み方の違いを十分考慮したか?など。)

…素朴な考えはここまで。
以下、S.Uさんにお願いできれば幸いです。

_ 玉青 ― 2011年11月20日 08時58分22秒

ごめんなさい。mimiさんのご質問は、「速度計算にGPSを使うとなぜ問題か?」でしたね。ちょっと上のコメントはポイントがずれていたようです。
なぜ問題か?と言えば、単純に精度不足ということに尽きるのではないでしょうか。そもそも、今回のような精密実験に使用することを目的としていないシステムですから、そこまで全面的に頼ってはマズイ、ということかと思います。


…いや、それも違うのかな(ぶつぶつ)。
再実験でも、はっきり光より早いという結果が出たけれども、それはGPSを使ったことによる(単純な精度の問題ではなく)「系統誤差」ではないか?という批判が現在あるということでしょうか?うーむ、なんだか、私も頭の中が混沌としてきました。
S.Uさん、重ねてどうぞよろしくお願いします。

_ S.U ― 2011年11月20日 10時56分54秒

 お振りいただきありがとうございます。

 二階堂焼酎のCMは、古い学校の景色が心にしみて記憶にはあったのですが、それと今回のニュートリノ速度測定にまでは連想が及びませんでした。

 mimiさんご質問のニュートリノの速度測定にGPSを使うことの問題についてですが、玉青さんのご回答は、前半の測定原理・測定方法については正しく、精度不足であるという後半の推測は誤りで、それはそれで良いのですが、本当の問題は、最後のご混乱(?)に集約されていると言えるかもしれません。

 結論から申しますと、GPSを使っていても、実用的・技術的・精度的な問題はありません。平たく言うと、GPSの測定技術は、この実験を主催している素粒子実験グループの管轄外であって、外部の専門家に「丸投げ」になっているということが問題なのです。それも、速度測定における「距離測定」と「時計合わせ」という測定の中核部が外部に丸投げになっていて、素粒子実験家によるチェックがまったく出来ない状態にある、というところが業界の専門家から見ると気持ち悪いのです。どちらかというと、文化的な問題であると私は思います。研究者のこのへんの考え方については、業界内の私にではなく、玉青さん、mimiさんに分析していただくのが良いと存じます。

 以下は、----- から ----- までは実験のやや細かい具体的内容の説明です。必要に応じてご覧下さい。

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距離測定:
 ニュートリノの飛行距離 731278.0±0.2 m の測定は、その大部分がGPSによる位置測定によっています。ただし、加速器と検出器は地下にあって、そこでは直接GPSが使えないので、それに、施設の建物や実験装置の図面をつきあわせて求められています。つまり、衛星測地+建築土木測地+素粒子実験装置の異種のデータを足し合わせて求められているわけです。これが正しければ、20cmという驚異的な精度なので、まったく問題ありません。

「時計合わせ」
 GPSの電波をニュートリノの発生点と検出点の双方の近所でそれぞれ受信して、両方の時計の時刻を合わせています。これに基づいてニュートリノの飛行時間を決定しています。この精度は1.7ナノ秒で、測定されたニュートリノの「速度超過」(約60ナノ秒)と比べて非常に小さく、問題はありません。一般相対性理論による重力の効果はありますが、今回の実験は、長い時間間隔を測るわけではないので、補正すれば精度の問題はありません。(実は、時計合わせよりニュートリノのスタート時刻の決定精度のほうが悪いです。)

 これ以外の方法として、両方の時計をまずどこか中間にある土地に持ち寄って、そこでピッタシ合わせた上で、それぞれ持ち帰るという方法もあり得ますが、それは時間が経つうちに時計が狂ってきてだめだそうです(一般相対論の補正はちゃんと施せば問題ないのですが、それぞれの時計自身で誤差が累積するそうです)。また、別の方法として、両方の時計を電気ケーブルで直接つないで信号を送って合わせる(おそらく陸上競技場のスタートピストルとゴールにある時計はそうなっている)ということも考えられますが、この場合は、ケーブル中の電気信号の伝搬速度が自信を持って決定できない(これは光速よりはある程度遅い)ので、これはさらに信用してもらえないと思われます。

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 では、素粒子実験の管轄内で、実験技術を閉じさせるためには、どうしたら良いかというと、おそらく、地下にまっすぐにトンネルを掘って、同じコースをニュートリノと光で競走させるしかないと思います。これなら、時計合わせも距離測定も必要なく、ゴールの時間差を測るだけで文句なしです。

 でも、そんなことは簡単にできることではないので、当面は、何らかの独立したチェック方法を探るべきなのでしょうが、私はよい方法は知りません。別の実験グループが別の装置で測定するしかないのかもしれません。

 私は、GPSを使うこと自体は一応(専門家にヘマがない限り)信用しています。やはり、疑うべきは、加速器や検出器に近い電気回路が、実験期間中に、本当に実験家の期待通りに働いていたかということだと思います。素粒子実験家の管轄内のことを出来る限り確認することだと思います。(すでに十分やって、これ以上疑い出せばもうキリがない、という状態にあるのでしょうけどね)

_ 玉青 ― 2011年11月20日 11時56分18秒

さっそくのご回答ありがとうございます。

なるほど!
私は何となく現在の技術水準でぎりぎり察知できるぐらいの速度差をイメージしていたのですが、今の技術でも楽々(でもないかもしれませんが)検出できる差がドンと出てしまったので、さあどうなんだ、という話なわけですね。問題の基本構図を見誤っていました。

>同じコースをニュートリノと光で競走

「決着はコースで付けよう」と、光がニュートリノに手袋を投げつけるシーンが浮かびました。たしかに衆人環視のもと、堂々と勝負してもらうのが一番確実ですね。

ニュートリノを反射する鏡か何かあれば、簡単に実験できるのかもしれませんが、そんなものがあるぐらいなら、最初から大規模な検出装置は要らないですね。 何かうまい手はないものか…と考えていると、またトンデモ系に行ってしまいそうですが。(笑)

(mimiさん、勝手に盛り上がってすみません。)

_ mimi ― 2011年11月20日 16時23分55秒

玉青さん、s.uさん、どうもありがとうございました。
ネットで調べればいいのでは?とも思ったのですが、せっかく専門家の生のご意見をお伺いできるのですから、無理を承知で質問させていただきましたが、詳しくご説明いただき、大変ありがたいです。

そうなんです。素人考えでいけば、まさしく同じコースで勝負してもらえれば、一目瞭然だと、勝手に思っていたのですが、それが出来ないことも、容易に推測できます。

しかし、この実験結果に、そこまで誤差がないという事実に衝撃をうけました。実は、、この誤差が問題なのではないかと思っていたからです。
ですので、『GPSの測定技術は、この実験を主催している素粒子実験グループの管轄外であって・・・』というくだりを拝見したことで、とてもすっきりした感があります。(ちなみに、ニュートリノは、反射させることができるのですか??)

となると、ますます今後の展開が気になりますね。
また、フランスに戻って、ヨーロッパ諸国の見解を注視したいと思います。

さて、二階堂焼酎のCMを探させてしまいすみません。(名前を出してもいいものか悩んだので)とても日本的で哀愁の漂うCMなので、個人的に好きなのです。
ダーウィンルームは、女性でも気軽に入れそうで、東京に行く機会があれば是非立ち寄りたいです。

_ S.U ― 2011年11月20日 19時01分58秒

mimiさん、玉青さんにご満足いただける回答だったようで良かったです。

>ニュートリノを反射する
 おぉ、そうすれば、近くで何往復かさせて正確に速度が測れそうですね! 思いも及ばなかった画期的なアイデアですが、残念ながらニュートリノを反射させることは無理です。(「中性カレント」という現象で、物質に当たってごくごくまれに跳ね返ることはありますが、飛んで行ったニュートリノがドッと跳ね返ってくることはありません~)

 でも何らかの策はあるかもしれませんね。トンデモ系はともかくとして、実験の検証になりそうなアイデアがあったら、ナンデモ指摘してほしい、というのがただいまの実験グループのスタンスだということです。

 件のニュートリノの生産拠点は、ジュネーブ・コアントラン空港の近くの地下にあるので、また、そちらのほうへお出かけの際はニュートリノのことを思いだしてやって下さい。
それから、茨城県産のニュートリノの生産再開に向けた応援もよろしくお願いします。

(フランス・スイス産)
http://info-cngs-beam.web.cern.ch/info-cngs-beam/fig6.jpg
(茨城県産)
http://legacy.kek.jp/ja/news/press/2011/J-PARC_T2Kneutrino.html

_ 玉青 ― 2011年11月23日 22時16分25秒

○mimiさま

今回もmimiさんのおかげで、いろいろ発見がありました。
ありがとうございました。
束の間の日本の情趣、どうぞ十分堪能されてくださいね。
フランス情報もまたよろしくお願いします。

○S.Uさま

懇切な解説、本当にありがとうございました。
実験をめぐる体制的問題、世間の人の視野からは漏れがちですが、S.Uさんのお立場では気になるところでしょうね。
茨城県産のニュートリノが大豊作で、早く店頭をにぎわす日が来ますように!

_ S.U ― 2011年11月24日 19時02分48秒

>実験をめぐる体制的問題
 私個人の本来の趣味では、ニュートリノや相対性理論の話題は、できるだけ人事を超越したかたちで言及したいのですが、昨今の科学を取り巻く情勢ではそうもいかず、ある程度、人間の気持ちが前面に出たり、ついつい宣伝をしてしまうのもやむを得ないところがあります。

 こういう風潮を残念に思う「往年の科学ファン」もいらっしゃるとは思うのですがねぇ。

_ 玉青 ― 2011年11月25日 05時38分41秒

>人事を超越

ええ、かくありたいですね。
まあ、思ってもなかなかそうできないところが厄介な点で、他方そこに焦点を当てれば、人間行動学的な新知見が得られる可能性もあり、興味の尽きぬところでもあります。が、やっぱり厄介といえば厄介で…(以下エンドレス)

_ S.U ― 2011年11月25日 06時42分59秒

はい。結論と致しましては、今後、予断を持って方針をしばることなく、その場その場に応じて的確な対応を施し、最終的に全体的な利益に向かう方向になるよう、識者のご意見等も考えに入れて、鋭意努力する所存です。(笑)

_ 玉青 ― 2011年11月25日 20時50分03秒

あはは。
では、遺漏なきよう善処されることを切望し、質問を終えます。(笑)

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