救世主は2000万光年のかなたより2015年10月08日 07時03分41秒



メシア五十一番」と聞くと、何だか讃美歌の一曲みたいですが、その実体は夜空に優美な渦を描く星の雲です。

(1920年代と思われる古絵葉書)

北斗のひしゃくの柄(え)の脇に浮かぶのが猟犬座で、その隅っこでグルグル渦を巻いているのがM51、通称「子持ち銀河」。

「M51」は、フランスの天文家、シャルル・メシエ(Charles Messier、1730-1817)の頭文字にちなみ、「メシエ目録51番天体」の意味ですが、戦前の『天文学辞典』を見ても、メシエはやっぱりメシエなので、これを「メシア」と書くのは、当時としても一般的でなかったのではないでしょうか。(ちなみに救世主の方は「Messiah」)

(山本一清・村上忠敬(著)『天文学辞典』、恒星社、昭和8(1933)より)

「子持ち銀河」の名の由来は、もちろん傍らにお伴の銀河(NGC5195)を引き連れているからで、これを「主従」と見なすと息苦しいですが、仲の良い親子と見なせば、なかなかほほえましい光景です。

(仲良く手をつなぐ親子。二つの銀河は見かけだけでなく、距離的にも近接し、物理的相互作用を及ぼしていることが知られています。現実の親子と同じく、この宇宙の親子も、近くで見ればいろいろ葛藤があるのでしょう。)

M51は、天文学史上はじめて渦状構造が観測された銀河として知られ、それを成し遂げたのは、アイルランドのロス伯爵の有名な巨人望遠鏡でした。時代は19世紀半ばのことです。ロス伯爵によるスケッチ(の版画)は、以下の記事の真ん中ぐらいに出てきます。(→ http://mononoke.asablo.jp/blog/2015/02/13/7571445 )

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国が自壊しつつあるとき、地に救世主はありやなしや。
それとも救世主を期待する心が、そもそも危険をはらんでいるのか…