空の青、本の青(4)2010年09月05日 20時12分19秒

(昨日のつづき)

「では、太陽系の果てを超えた場所から、彗星号に乗りこむことにしよう。」

この彗星の旅は完璧な空想旅行なので、著者はいきなりいちばん遠い場所からスタートします(そこまで自由に行けるなら、そもそも彗星に乗る必要はないような気もしますが、著者はあまり気にせず旅の案内を続けます)。

まず訪れるのは海王星です。当時はここが太陽系の果てでした。
著者は、海王星の物理的性質を説明した後で、適当な大気と惑星自身の熱のおかげで、この酷寒の地でも海王星人は生きのびることができるし、彼らは暗闇の中でも活動できるよう、おそらく大きな瞳を持ち、網膜も鋭敏なのだろうと推測します。


彗星号は、次いで天王星、土星、木星、小惑星帯へと順番に進みます。
天王星の衛星の話、大きな図体のくせにコルクのように軽い土星の話…旅の話題は尽きません。

小惑星が密集する危険なエリアを抜け、太陽が近づくにつれ、彗星はジェットの尾を伸ばし、その壮麗な姿を天空に現します。

「我々の乗り物は、今や非常に速力を増し、停車駅の間隔もごく狭いので、各惑星にほんの一瞥を投げかけただけで次に向わねばならない。」

火星や地球の脇を過ぎ、さらに我々は金星、水星、そしてバルカンへと、次から次へと通過していく。ただしバルカンは、水星と太陽の間の小惑星帯を構成する、無数の小惑星の1つに過ぎないことが分かるだろう。」

バルカンの名が、郷愁を誘います。
バルカンは、海王星の軌道予測者、ユルバン・ルヴェリエ(1811‐1877)が1859年に提案した幻の惑星。1881年には、すでに存在が疑問視されていましたが、この記述こそ、まぎれもない時代の刻印でしょう。

そして彗星号は最終目的地の太陽に到達します。
視界いっぱいに広がる光。ダイヤモンドでさえも一瞬で燃え、どんなに硬い金属でもとろけてしまう熱。目の前に、あまたの観測者を悩ませた、あのバラ色のプロミネンスが燃えています…。

   ★

こんな風に書いていると、話が終りそうにないので、あとは挿絵を適当に貼って、本の紹介に代えることにします。(版画ばかりで写真がないのは、さすがに19世紀。)

              立派な館の庭から眺める真夜中の空。

                            海上に浮かぶ蜃気楼

 むつまじく虹を眺める親子

              「霜と雪」の章題ページ

  雪の結晶と美しい雪化粧

   ★

今日も全国で猛暑日。一体いつになったら、現実世界に涼が訪れるのでしょうか。
いささかバテてきました。。。

コメント

_ S.U ― 2010年09月07日 08時44分16秒

太陽系図の土星と木星の衛星の配置が古風なのでほほえましく感じました。1877年に発見された火星の2衛星は載っていますでしょうか。

_ 玉青 ― 2010年09月07日 20時21分09秒

じーっとルーペで挿絵を拡大して見ましたが、火星の衛星は描かれていませんでした。
そもそも、本文中でも火星の扱いが軽くて、わずかに3行。これが本書の火星に関する記述の全てです(極冠の存在と、大陸らしき模様があることがサラッと書かれています)。
スキャパレリに端を発する火星ロマンが英語圏でポピュラーになるまで、ほんのわずか間があるせいかもしれません。

_ S.U ― 2010年09月08日 00時15分49秒

おーっ、お調べくださりどうもありがとうございます。
英国では火星大接近の時の高度が低いので、アメリカやイタリアの観測者に比べて圧倒的に不利であることが冷淡な態度につながったのかもしれません。火星ロマン時代には、そのぶんを想像力で補ったということでしょうか。

_ 玉青 ― 2010年09月08日 22時06分31秒

イギリス人はあまり熱くなることがないんでしょうか。火星論争では、わりと一貫して冷静な態度を保っていたように見えます。
グリニッジのE・W・マウンダーが、火星の運河の錯視説の急先鋒に立って頑張っていたこともその一因でしょうし、あるいは隣国フランスで、フラマリオンが余りにも熱く火星ロマンを語ったことに対する“アンチ”があったのかな…という気もします。
いや、それよりも、やはり「よく見えない」というのが最大要因かもしれません。人は見えないものには冷淡になりがちですから。(見えないからこそ、そそられるという人もいますけれど・笑)

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