SHIMADZU 憧憬2015年10月23日 20時51分55秒

2002年にノーベル化学賞を受賞された田中耕一さん。
今年で56歳になられたそうです。ノーベル賞受賞の13年前には、童顔の印象がありましたが、最近の姿を映像で拝見すると、髪もすっかり白くなり、渋みが備わってきた感じです。

その田中さんを引き合いに出して、自分は以前こんな文章を書きました。

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島津製作所といえば、ノーベル化学賞をとった田中耕一さんのいる会社。
で、何をやっている会社だね?…と重ねて問われると、あまり明瞭なイメージがない方もいらっしゃるでしょう。私も五十歩百歩です。

その名の通り、ここは基本的に機械メーカーです。現在は分析・計測・医用・産業の4分野にわたって、先端的な科学機器の製造販売を行っています。

しかし、天文古玩的には「理科教材メーカー」の印象が強く、実際、創業当初はそれが本業でした。まあ、当時はそれこそが「先端的な科学機器」だったので、その意味では事業へのスタンスは不変だともいえます。

同社の創業は明治8年(1875)。
創業者は初代・島津源蔵(1839-1894)。没後は息子が二代目・島津源蔵(1869-1951)を襲名し、この2人の源蔵が古都に根を張り、明治日本の科学の進歩を側面から支え続けたのでした。

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上のリンク先のコメント欄では、丸に十文字の島津の社章の由来(戦国時代、島津の殿様から姓と紋を賜ったとする、創業家の家伝)にも触れていますが、これぞ理科少年にとっては、葵の御紋以上にまばゆい錦旗なのです。

   ★


この分子模型キットも、ひょっとしてこの「くつわ(丸に十字)」マークがなければ買わなかったかもしれません。


蓋には「Atom Model 原子模型」と書かれていますが、これは「Molecular Model 分子模型」と呼ぶ方が適切でしょう。
水素、酸素、炭素、窒素、塩素…色とりどりの原子球を、ジョイントで接合する、昔ながらの分子模型キットです。そのジョイントも、今ではフレキシブルな樹脂製に変わってしまい、こういう金属スプリング式のものは見かけなくなりました。


蓋裏には見慣れた「理振法(理科教育振興法)」の代りに、「定通法」のラベルが貼られています。これは「高等学校の定時制教育及び通信教育振興法」による整備備品であることを示すものです。購入は昭和32年(1957)。元は岩手県のさる高校の理科室に置かれていました。「イーハトーブから来た理科模型」という点も、何となく好ましいです。


永遠に飛び散っては引き寄せ合う、「神のビリヤード玉」。


理科機器好きでも、ちょっとウルサ型になると、オレは断然、前川だね。島津が好きなんて、巨人・大鵬・玉子焼きといっしょじゃないか!」とか言い出しかねませんが、まあ、この「dzu」の表記にぐっと来るのが、古来筋目正しい理科室好きというものです。

コメント

_ S.U ― 2015年10月24日 07時40分39秒

>理科機器好きでも、ちょっとウルサ型
 真の理科好きはそういうことをいうのですね!
 島津製作所は、工学専門の人の評価も高いですから、「玉子焼き論」には十分反論できると思いますが、実はかえってそういう背景がなく、ややB級志向的理科専門のほうが評価されるのでしょうか。

_ 玉青 ― 2015年10月24日 17時29分31秒

いやあ、これは真面目に反論してはいけませんよ。(笑)
まあ、島津については今日の記事に書いたような次第で、ちょっと理科室趣味者にとって純一ならざるものを感じるので(本当は純一でないのは理科室趣味者の方なので、これは転倒した価値観ですが)、このように難じる御仁がいないとも限りません。

_ S.U ― 2015年10月25日 07時09分32秒

>理科室趣味者にとって純一ならざるもの
 その意味では、もともと産業用と演示用の双方の生産を志向していたわけですから、島津製作所は微妙ですね。
 一般には、理科室のものと言えども、良心的な製品で授業で実験データを取るものは教育的利用価値から安定した性能と耐久性が期待されるので、それなりの信頼のおけるメーカーのものとなるのはやむを得ないのではないでしょうか。

 いっぽう、純粋な趣味を究極的に突き詰めると、実用性を度外視して夢や形のみを優先する怪しげな商品を売る会社、というところに行きかねないので、なかなか一筋縄ではいかぬ議論を含んでいるように思います。

_ ガラクマ ― 2015年10月25日 20時26分23秒

 私は以前からここの分析機器のお世話になって慣れ親しんでいる会社ではあります。
 昨年、新社屋を見学させていただきましたが、昔の町工場然とした雰囲気から、一挙に大手製薬会社のような垢抜けた雰囲気となり、レントゲン機器を中心としたショールームは華やかでした。

 ところで、私の趣味としての学校向け天体望遠鏡については謎の多いメーカーです。
五藤光学のOEMのはみてすぐわかりますが、明らかに似てはいるが、どこのものとも少し違う望遠鏡が存在します。
私も同社の資料館、社史等を調べたり、同社の社員にお願いいたしておりますが、まだ辿りつけません。
歴史あるメーカー。謎もそれだけ多く、調べていくのは楽しいものです。

_ 玉青 ― 2015年10月25日 21時15分26秒

〇S.Uさま

理科室趣味の中でも“抒情派”に属する者は、「理科のための理科」を志向するといいますか、理科室原理主義といいますか、理科室という小天地を、俗世と隔絶した清浄界として完結したい気持ちが強く、経済行為と不可分の産業界と通じているというだけで、それを拒む傾きがなくもありません。言うなればささやかなアイボリー・タワーですね。

まあ、こういう風に狭い世界に閉じこもって自己満足するのは、理科の本旨からすれば邪道と思いますが、思うにあの『水晶物語』の主人公にも、似た弊があったかもしれません。(そして、私はわりとそれに対して同情的です。)

〇ガラクマさま

光学機器の生産・流通経路も、いろいろ錯綜して複雑怪奇だと思いますが、理科教材もよく似たところがありますね。大手と零細が入り乱れて、下請けやら、OEMやら、独自ブランドやら、もう何だかよく分かりません。それだけに、調べる楽しみも尽きないのでしょう。

_ S.U ― 2015年10月26日 20時20分30秒

 理科室の抒情も、教育・研究の場としてのアイボリー・タワーも捨ててはならない大事なものですね。日本の理科好きでこれをおろそかにする人はいないとは思いますが、若い人も年寄りもすべての理科好きが抒情を忘れないよう、それから理科教具や実験装置のメーカーが、たとえ産業機器の大企業になったとしても、中小町工場の精神を忘れないよう、我々は秘かに暗躍しようではありませんか!

_ 玉青 ― 2015年10月27日 07時32分52秒

おお!!!(←ひしめく人々の間から潮のように響く歓呼と賛同の声)

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