ピエロも消え、若者も消えた ― 2017年10月28日 09時43分03秒
本来の天文趣味からずいぶん遠いところまで来てしまいましたが、ついでなので、『月の光に』に関して、もう1つだけ古絵葉書を載せます。
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これも「Au Clair de la lune」と題されていますが、ここにピエロの姿はなく、登場するのは少年と少女のみ。内容も、例の歌とはあまり関係なさそうなので、この「Au Clair de la lune」は、特定の歌のタイトルというより、ごく一般的なフレーズとして使われているのでしょう。
(典型的なセピアの絵葉書。周辺の銀化が進んでいます。)
さて、その内容なのですが、これまたよく分かりません。
手元にあるのは5枚ですが、これでコンプリートなのかどうかも不明です。
セリフが一切ない無言劇なので、例によって、適当に個人的解釈を施しつつ、その情景を一瞥してみます。
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月夜の出会い。目が合ってはにかむ女の子。
「さあ、おいでよ」と、頼もしく手を引く男の子。
睦言とキス。
斜に構えて煙草をふかす男の子。酒瓶を抱えて見上げる女の子。
男の子はいつの間にか姿を消し、酒瓶を抱えて独り煙草をくゆらす女の子。
その足下に「Fin de siècle(世紀末)」の文字。
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女の子が途中から眼鏡をかけていますが、これは女性が齢を重ねた記号的表現でしょう。全体として、男にたぶらかされて、すさんでしまった女性の半生を描き、「これぞ頽廃の世紀末なり!」と揶揄する内容なのかな…と想像しました。
まあ、あまりにも演者の二人があどけないので、ちょっとどうなのと思わなくもありませんが、こういう趣向が当時は受けたのかも。
(下界のドラマを見下ろす冷笑的な月)
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なお、この絵葉書はアドレス欄と通信欄を仕切る境界線があるので、絵葉書の時代判定のメルクマールからすると、1904年以降のものということになるのですが、内容的には19世紀末のものとおぼしく、ちょっと時代は曖昧です(裏面だけ後から刷り替えたかもしれません)。いずれにしても、20世紀初頭を下るものではないでしょう。
(絵葉書の裏面)
ピエロが消え、男の子も消えました。
そればかりではなく、女の子も、当時この絵葉書を売った人も買った人も、今ではみんな消えてしまいました。私だって遠からず消えるでしょう。
残るのは月ばかりです。
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